7.1最上川上れば下る稲舟のいなにはあらず、この月ばかり。 古今東歌
雨降れば水嵩まさる最上川、落ち行く先も濡れむとぞ思ふ。 もぐら
五月雨と緑のしづくを集めつつ、宗匠乗せて最上川舟。 もぐら
10.2筑波には筑波の風が吹きにけり、さみどりの森、ずんと轟く。 田中拓也
筑波嶺の影赤みゆくころなれば、人の心をなほも見むかな。 もぐら
台風の近しと言ふか、筑波嶺の夕影まして赤くありけり。 もぐら
13.5かかり来し電話、またか、と聞きかへす声音さまざまに、儲け話しの。 清水房雄
ベル鳴らすパターン、勧誘電話にあり。それ、とし思へば出ることは無し。 もぐら
自宅なれば、トイレにゐること風呂のこと多く、オフィスの電話とは違ふ。 もぐら
14.1社会批判の歌はいつにても威勢よし。実践行動を前提とせず。 清水房雄
批判なり、と思ひ過ごしてゐし人は、現実の荒波に洗はる。 もぐら
批判批判すれどもそれは何ゆゑ、と問へば結局ご自分都合。 もぐら
14.3面従腹背まこと処世の要諦と過ぎて来にけり、老い果てにけり。 清水房雄
礼儀とは処世にあらず、と思へども、処世がために礼儀強ふるなり。 もぐら
悲しきは、面従腹背しゐし人の化けの皮、今はがれたるとき。 もぐら
15.2世論などいふあやしげなものの有り、大衆愚昧の総和ともして。 清水房雄
世論世論囃して儲けむとする人多く、世論は幻となる。 もぐら
支持率の低下は即ち総辞職、なりとて囃すマスコミ諸氏はも。 もぐら
17.2歳月を灯ともすごとき電話きて、傍への百合の香りさやがす。 雨宮雅子
往にしなり、と思ひし人より電話きて、ふと我幽界なるかと思ひつ。 もぐら
年月は年月なれど、知りし人の、なほあり、と言ふ電話嬉しも。 もぐら
18.4向ふ家の明かりの窓を窓が映し、見知らぬ部屋となれる寝室。 雨宮雅子
満月に照らされてゐる部屋に入り、蛍光灯を付けむとふ手止む。 もぐら
寒けれど満月さし入る我が小屋は、極楽御殿の如し、と思ふも。 もぐら
19.5つつがなくなにごともなく過ぎし夜の卓に点れり、二つ枇杷の実。 雨宮雅子
恙なくありけるけふを喜びて、日本酒一合、以って寝むとす。 もぐら
食ふもののひとつとて無き宵はせめて、庭の枇杷の実採りてい寝てむ。 もぐら
20.3日本人われありて、一年に排出する二酸化炭素20tの罪。 小池光
無駄動作お節介動作の多くして、CO2増すソフトありけり。 もぐら
電車だってCO2を出すぢゃないか、などと言ひ張る自動車依存氏。 もぐら
23.5おかあさん娘時代に弾きました琴がでてきて、かなしきろかも。 小池光
母が娘のころに習ひ給ひてし琴、弦なべて切れゐたるかな。 もぐら
嫌がりて習ふことなくなりしピアノ、ひたすら粗大ゴミの如くして。 もぐら
24.2高次の項捨てて、やうやく見通しの立ちたり。数をいれて解きゆく。 真中朋久
線形化、ゆっくり変化、弱結合。便利なれどもすべては近似。 もぐら
教科書にある式なれども、これは近似、と言へば、かあっと怒る人あり。 もぐら
25.4ゆびさきをかるくつなぎあふ二人なり。うしろにわれがゐると気づかず。 真中朋久
前歩くふたあり、指を繋ぎゐるがゆゑに、追い越すことは叶はず。 もぐら
彼らしきと手繋ぎゐる女性、はた二つ目あれども全く前見ず。 もぐら
26.5自重せよ、と言ひて言ふのみにありたるは、見殺しにせしことと変はらず。 真中朋久
暴れむ、とする人おだてて得は無し。せいぜい自重、自重と言ふのみ。 もぐら
暴れたきならば、さっさと自滅せよ、と言ふが最も親切と思ふ。 もぐら
29.4幾筋も斜めに引かれたる線の、雨音の中を急ぐ人と馬。 横山未来子
広重が降らせし雨に濡れそぼち、今宵の赤坂やどりは如何。 もぐら
台風と雖、必ず災害は大にはあらず、その逆もまた真。 もぐら
34.6おみなごの命さびしくなる酒は、越後寒梅というがまことか。 竹山広
越寒の一合ばかりに、咲きて散る花の如くの命と思ひつ。 もぐら
世に倦みてありてしときの越寒の一合、命蘇りけり。 もぐら
37.7「思いのまま」なる木札は古び、この梅に差すひかり、われもきみも老いしむ。 永田和宏
裏伊豆、と言ひはせねども、思ひのままとふ桃の樹の淋しげなりけり。 もぐら
紅に白に思ひのままの桃の花、若かりしころの思ひ出の如。 もぐら
41.5暑さなほ言ひがたくして、茂りたる樹下わたる風すでに秋めく。 稲村恒次
二三たび豪雨あれども台風の上陸なかりき。これもまた夏か。 もぐら
歳末は腹減りゐむ、と思ひけり、稲穂の実り薄し、と見しとき。 もぐら
42.6郭公の間遠きこゑにゆすぶられ、老のうたたね行きつ戻りつ。 岩田記未子
何時しかと同じ音ならむ、とかっこうを昼寝の夢の中に聴きつつ。 もぐら
聴きたし、と思ひしほととぎすならで、今夏来しのみと思ひつ。 もぐら
45.7月の土地、一エーカーほど下さいな。風切羽の衰えぬうち。 小原起久子
我が墓を建てむ、と月面土地を買ひ、さて墓参毎一億かかるとは。 もぐら
月に土地を買ひしつもりに、墓建てし積もりに、墓参をせし積もりなり。 もぐら
48.7時計を忘れ手帳を忘れてでかけしが、敵七人の一人にも会はず。 島野達也
ケイタイを忘れて来しが正解の、ひさかたぶりののんびり旅行。 もぐら
やうやくに七人の敵をやりすごし、帰れば手強き八人目の敵。 もぐら
51.1キッチンに南瓜ひとつを置きたれば、そこより秋の気配ひろがる。 寺山田鶴子
ハロウィーンならねど、ゴーストのごとくして、シーツ被りたる物の怪ありけり。 もぐら
南瓜より秋茄子のはうが食ひたし、とシーツ被りし物の怪は言ふ。 もぐら
55.6ふたたびは還ることなきこれの世の秋のゆふぐれ、散髪してゐる。 中山良之
散髪屋主人は真面目が良し、と思ふ、我が顔などは覚えず、としても。 もぐら
久方の散髪なれば、明日よりは秋の風吹くころともえ知らず。 もぐら
56.7海山の挟間に住めば、東京に過ごしたる日々、たまゆらうかぶ。 西田郁人
兎追ひ小鮒釣りてし山川を忘れし我等は、虚しかりけり。 もぐら
うな偽装なれば、子豚も偽装してヘリコプターにて翔び来たるなり。 もぐら
57.5そぞろなる秋の気配にいざなはれ、屋台に香ばしき唐黍を買ふ。 樋口忠夫
大通り公園名物とうきびも、タレ塩多きに辟易しにけり。 もぐら
恋人ら、こころを入れ替へし如くに、みやげ物店ずらりと白し。 もぐら
59.7季のゆく早さが軒の雨垂れとひとつになりて、夕べけざむし。 福崎定美
旅立ちのこころしなければ、雨降りも台風にさへもこころ動かず。 もぐら
雨は何時も降るとは言はぬに、船は何故か何時も揺るると言ふ人多し。 もぐら
62.4うかうかと二十数年勤めきて、解散式の宴につらなる。 丸山三枝子
倒産せし会社にひたすら勤め来しは、不明の至りと恥ぢ入りにけり。 もぐら
我がゆゑにあらず社長が無能ゆゑ、とほぞを噛みける倒産決定。 もぐら
94.2すみやかにながるる「時」に罪を着せ、今日書かざりき、種子蒔かざりき。 春日真木子
きのふまで繋がりて来し時は、けふ我裏切りて過去へと戻りつ。 もぐら
何のために種蒔きけるか知らぬまま、人の世冬の中へと入りけり。 もぐら
99.2夾竹桃咲きて校舎に暗さあり、饒舌の母をひそかににくむ。 寺山修司
窓下ひとつ夾竹桃の咲きゐたり、明日この家を出でむ、と思ふに。 もぐら
人の良き母がことのみ思はるる、夾竹桃の紅き午後には。 もぐら
116.4天下り、談合、揉み消し、無駄遣ひ、ゆかしき言葉このごろ聞かず。 上田一成
無駄遣ひして、談合を揉み消して、天下りして一生を終ふ。 もぐら
公務員試験に、汚職の仕方など出ずありけるに、連中は何故。 もぐら
121.7遺されて、また遺されて独りなり。此の世の秋は闌けゆくばかり。 高比良みどり
家族作り、またちりぢりとなり行きて、女の秋は果つるなりけり。 もぐら
一人とは一人なれども、男、女、それぞれ意味は違ふなりけり。 もぐら
122.3読む、書く、とテレビを見るは異なれば、眼鏡買ひ足す六月の尽。 永田典子
遠用と近用のほかに中用の眼鏡買ひたし。我老いにけり。 もぐら
眼鏡して階段くだりたれば、宙翔ぶが如くして肩を折りけり。 もぐら
127.6穏しさに耐へて杣路をくだるとき、みえがくれするもの、幻めきて。 福田龍生
空山、と言へども、遠き人語あり。賊か敵か、と恐ろしかりけり。 もぐら
一日ぶり人語聴けり、と縦走を果たして里路下りゐるとき。 もぐら
142.10生還の身をつつましく喜びて、言葉するどく銃後に及ぶ。 千代国一
生きて帰りしのみで良いぢゃないか、とは補償求むるこころ知らぬなり。 もぐら
インフレゆゑ紙屑となりし旧円札。今更補償、と誰も言はぬが。 もぐら
145.9みちのくに雪ふぶきし、と妻は言ふ、新聞もちくる児の後より。 千代国一
越の国は初雪なり、と妻し言へば、我が喉、越寒欲し、と言ふなり。 もぐら
白雪の美しき国、酒旨し。ロシアのウォトカとかも含めて。 もぐら
149.10焼跡をうづむる草の丈高き、そこに別るる一灯のかげ。 千代国一
焼け跡の、バラックなどとふ、子は知らず。きっと教科書検査官も知らず。 もぐら
焼け跡もバラックも知り得しことは、今誇ろほしかることとなりけり。 もぐら
153.2仕合せ、といふ程のもの与へしや。食へば居睡る妻となりたり。 千代国一
夫往にて、子らちりぢりとなりぬれば、浅茅が原なる鬼婆めきたり。 もぐら
人類となりて始めて婆とふが現る。女の進化形態。 もぐら
157.1人間の文明に委細かかわらぬ、堀りたて竹の子の直ぐなる旨さ。 久々湊盈子
筍は掘らむところには出でぬなり。先様都合に顔を出すなり。 もぐら
喰はれむ、と出でし竹の芽ならねども、大人の竹を喰ふを得ざれば。 もぐら
158.5ゆでたまごの殻をつるり、と剥きし人は、ああ美しき人を娶りつ。 駒田晶子
ゆでたまご殻を綺麗に割りて呉るる女性を、我は娶らまほしかり。 もぐら
餌付けせしゆゑに仕方はなけれども、朝昼晩とも飯は作らず。 もぐら
166.2おもしろい歌とは、技のちからもて心そっくり現わす歌だ。 奥村晃
面白き歌とし言はは、それなりに頭も金も遣ひし歌なり。 もぐら
頭良き人の作りし佳き歌を、馬鹿は判らず、詰まらぬ、と言ふ。 もぐら
172.1自が家を持たず逝きたる夫のため、惜しまず建てしふるさとの墓。 岡田晶子
東京に墓移す人の多ければ、空き墓お安く、と寺は言ふなり。 もぐら
生前に墓建てたれば、安心と思へど、守るべき人如何に。 もぐら
177.7人の非を責めるばかりの人と居て、長所を見やうよ、やんはりと言ふ。 島田洋子
欠点を見ぬ振りすれど、実は見てゐて、何処かにて報ひ来るなり。 もぐら
褒められしことは忘れで、叱られしことはすなはち忘れたきなり。 もぐら
歌壇2008/09