短歌の部屋

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歌壇2008/09 [66]
投稿者:[ もぐら ]  投稿日:[ 2008年10月04日(土) 20時02分51秒 ]


7.1最上川上れば下る稲舟のいなにはあらず、この月ばかり。 古今東歌

雨降れば水嵩まさる最上川、落ち行く先も濡れむとぞ思ふ。 もぐら
五月雨と緑のしづくを集めつつ、宗匠乗せて最上川舟。 もぐら


10.2筑波には筑波の風が吹きにけり、さみどりの森、ずんと轟く。 田中拓也

筑波嶺の影赤みゆくころなれば、人の心をなほも見むかな。 もぐら
台風の近しと言ふか、筑波嶺の夕影まして赤くありけり。 もぐら


13.5かかり来し電話、またか、と聞きかへす声音さまざまに、儲け話しの。 清水房雄

ベル鳴らすパターン、勧誘電話にあり。それ、とし思へば出ることは無し。 もぐら
自宅なれば、トイレにゐること風呂のこと多く、オフィスの電話とは違ふ。 もぐら


14.1社会批判の歌はいつにても威勢よし。実践行動を前提とせず。 清水房雄

批判なり、と思ひ過ごしてゐし人は、現実の荒波に洗はる。 もぐら
批判批判すれどもそれは何ゆゑ、と問へば結局ご自分都合。 もぐら


14.3面従腹背まこと処世の要諦と過ぎて来にけり、老い果てにけり。 清水房雄

礼儀とは処世にあらず、と思へども、処世がために礼儀強ふるなり。 もぐら
悲しきは、面従腹背しゐし人の化けの皮、今はがれたるとき。 もぐら


15.2世論などいふあやしげなものの有り、大衆愚昧の総和ともして。 清水房雄

世論世論囃して儲けむとする人多く、世論は幻となる。 もぐら
支持率の低下は即ち総辞職、なりとて囃すマスコミ諸氏はも。 もぐら


17.2歳月を灯ともすごとき電話きて、傍への百合の香りさやがす。 雨宮雅子

往にしなり、と思ひし人より電話きて、ふと我幽界なるかと思ひつ。 もぐら
年月は年月なれど、知りし人の、なほあり、と言ふ電話嬉しも。 もぐら


18.4向ふ家の明かりの窓を窓が映し、見知らぬ部屋となれる寝室。 雨宮雅子

満月に照らされてゐる部屋に入り、蛍光灯を付けむとふ手止む。 もぐら
寒けれど満月さし入る我が小屋は、極楽御殿の如し、と思ふも。 もぐら


19.5つつがなくなにごともなく過ぎし夜の卓に点れり、二つ枇杷の実。 雨宮雅子

恙なくありけるけふを喜びて、日本酒一合、以って寝むとす。 もぐら
食ふもののひとつとて無き宵はせめて、庭の枇杷の実採りてい寝てむ。 もぐら


20.3日本人われありて、一年に排出する二酸化炭素20tの罪。 小池光

無駄動作お節介動作の多くして、CO2増すソフトありけり。 もぐら
電車だってCO2を出すぢゃないか、などと言ひ張る自動車依存氏。 もぐら


23.5おかあさん娘時代に弾きました琴がでてきて、かなしきろかも。 小池光

母が娘のころに習ひ給ひてし琴、弦なべて切れゐたるかな。 もぐら
嫌がりて習ふことなくなりしピアノ、ひたすら粗大ゴミの如くして。 もぐら


24.2高次の項捨てて、やうやく見通しの立ちたり。数をいれて解きゆく。 真中朋久

線形化、ゆっくり変化、弱結合。便利なれどもすべては近似。 もぐら
教科書にある式なれども、これは近似、と言へば、かあっと怒る人あり。 もぐら


25.4ゆびさきをかるくつなぎあふ二人なり。うしろにわれがゐると気づかず。 真中朋久

前歩くふたあり、指を繋ぎゐるがゆゑに、追い越すことは叶はず。 もぐら
彼らしきと手繋ぎゐる女性、はた二つ目あれども全く前見ず。 もぐら


26.5自重せよ、と言ひて言ふのみにありたるは、見殺しにせしことと変はらず。 真中朋久

暴れむ、とする人おだてて得は無し。せいぜい自重、自重と言ふのみ。 もぐら
暴れたきならば、さっさと自滅せよ、と言ふが最も親切と思ふ。 もぐら


29.4幾筋も斜めに引かれたる線の、雨音の中を急ぐ人と馬。 横山未来子

広重が降らせし雨に濡れそぼち、今宵の赤坂やどりは如何。 もぐら
台風と雖、必ず災害は大にはあらず、その逆もまた真。 もぐら


34.6おみなごの命さびしくなる酒は、越後寒梅というがまことか。 竹山広

越寒の一合ばかりに、咲きて散る花の如くの命と思ひつ。 もぐら
世に倦みてありてしときの越寒の一合、命蘇りけり。 もぐら


37.7「思いのまま」なる木札は古び、この梅に差すひかり、われもきみも老いしむ。 永田和宏

裏伊豆、と言ひはせねども、思ひのままとふ桃の樹の淋しげなりけり。 もぐら
紅に白に思ひのままの桃の花、若かりしころの思ひ出の如。 もぐら


41.5暑さなほ言ひがたくして、茂りたる樹下わたる風すでに秋めく。 稲村恒次

二三たび豪雨あれども台風の上陸なかりき。これもまた夏か。 もぐら
歳末は腹減りゐむ、と思ひけり、稲穂の実り薄し、と見しとき。 もぐら


42.6郭公の間遠きこゑにゆすぶられ、老のうたたね行きつ戻りつ。 岩田記未子

何時しかと同じ音ならむ、とかっこうを昼寝の夢の中に聴きつつ。 もぐら
聴きたし、と思ひしほととぎすならで、今夏来しのみと思ひつ。 もぐら


45.7月の土地、一エーカーほど下さいな。風切羽の衰えぬうち。 小原起久子

我が墓を建てむ、と月面土地を買ひ、さて墓参毎一億かかるとは。 もぐら
月に土地を買ひしつもりに、墓建てし積もりに、墓参をせし積もりなり。 もぐら


48.7時計を忘れ手帳を忘れてでかけしが、敵七人の一人にも会はず。 島野達也

ケイタイを忘れて来しが正解の、ひさかたぶりののんびり旅行。 もぐら
やうやくに七人の敵をやりすごし、帰れば手強き八人目の敵。 もぐら


51.1キッチンに南瓜ひとつを置きたれば、そこより秋の気配ひろがる。 寺山田鶴子

ハロウィーンならねど、ゴーストのごとくして、シーツ被りたる物の怪ありけり。 もぐら
南瓜より秋茄子のはうが食ひたし、とシーツ被りし物の怪は言ふ。 もぐら


55.6ふたたびは還ることなきこれの世の秋のゆふぐれ、散髪してゐる。 中山良之

散髪屋主人は真面目が良し、と思ふ、我が顔などは覚えず、としても。 もぐら
久方の散髪なれば、明日よりは秋の風吹くころともえ知らず。 もぐら


56.7海山の挟間に住めば、東京に過ごしたる日々、たまゆらうかぶ。 西田郁人

兎追ひ小鮒釣りてし山川を忘れし我等は、虚しかりけり。 もぐら
うな偽装なれば、子豚も偽装してヘリコプターにて翔び来たるなり。 もぐら


57.5そぞろなる秋の気配にいざなはれ、屋台に香ばしき唐黍を買ふ。 樋口忠夫

大通り公園名物とうきびも、タレ塩多きに辟易しにけり。 もぐら
恋人ら、こころを入れ替へし如くに、みやげ物店ずらりと白し。 もぐら


59.7季のゆく早さが軒の雨垂れとひとつになりて、夕べけざむし。 福崎定美

旅立ちのこころしなければ、雨降りも台風にさへもこころ動かず。 もぐら
雨は何時も降るとは言はぬに、船は何故か何時も揺るると言ふ人多し。 もぐら


62.4うかうかと二十数年勤めきて、解散式の宴につらなる。 丸山三枝子

倒産せし会社にひたすら勤め来しは、不明の至りと恥ぢ入りにけり。 もぐら
我がゆゑにあらず社長が無能ゆゑ、とほぞを噛みける倒産決定。 もぐら


94.2すみやかにながるる「時」に罪を着せ、今日書かざりき、種子蒔かざりき。 春日真木子

きのふまで繋がりて来し時は、けふ我裏切りて過去へと戻りつ。 もぐら
何のために種蒔きけるか知らぬまま、人の世冬の中へと入りけり。 もぐら


99.2夾竹桃咲きて校舎に暗さあり、饒舌の母をひそかににくむ。 寺山修司

窓下ひとつ夾竹桃の咲きゐたり、明日この家を出でむ、と思ふに。 もぐら
人の良き母がことのみ思はるる、夾竹桃の紅き午後には。 もぐら


116.4天下り、談合、揉み消し、無駄遣ひ、ゆかしき言葉このごろ聞かず。 上田一成

無駄遣ひして、談合を揉み消して、天下りして一生を終ふ。 もぐら
公務員試験に、汚職の仕方など出ずありけるに、連中は何故。 もぐら


121.7遺されて、また遺されて独りなり。此の世の秋は闌けゆくばかり。 高比良みどり

家族作り、またちりぢりとなり行きて、女の秋は果つるなりけり。 もぐら
一人とは一人なれども、男、女、それぞれ意味は違ふなりけり。 もぐら


122.3読む、書く、とテレビを見るは異なれば、眼鏡買ひ足す六月の尽。 永田典子

遠用と近用のほかに中用の眼鏡買ひたし。我老いにけり。 もぐら
眼鏡して階段くだりたれば、宙翔ぶが如くして肩を折りけり。 もぐら


127.6穏しさに耐へて杣路をくだるとき、みえがくれするもの、幻めきて。 福田龍生

空山、と言へども、遠き人語あり。賊か敵か、と恐ろしかりけり。 もぐら
一日ぶり人語聴けり、と縦走を果たして里路下りゐるとき。 もぐら


142.10生還の身をつつましく喜びて、言葉するどく銃後に及ぶ。 千代国一

生きて帰りしのみで良いぢゃないか、とは補償求むるこころ知らぬなり。 もぐら
インフレゆゑ紙屑となりし旧円札。今更補償、と誰も言はぬが。 もぐら


145.9みちのくに雪ふぶきし、と妻は言ふ、新聞もちくる児の後より。 千代国一

越の国は初雪なり、と妻し言へば、我が喉、越寒欲し、と言ふなり。 もぐら
白雪の美しき国、酒旨し。ロシアのウォトカとかも含めて。 もぐら


149.10焼跡をうづむる草の丈高き、そこに別るる一灯のかげ。 千代国一

焼け跡の、バラックなどとふ、子は知らず。きっと教科書検査官も知らず。 もぐら
焼け跡もバラックも知り得しことは、今誇ろほしかることとなりけり。 もぐら


153.2仕合せ、といふ程のもの与へしや。食へば居睡る妻となりたり。 千代国一

夫往にて、子らちりぢりとなりぬれば、浅茅が原なる鬼婆めきたり。 もぐら
人類となりて始めて婆とふが現る。女の進化形態。 もぐら


157.1人間の文明に委細かかわらぬ、堀りたて竹の子の直ぐなる旨さ。 久々湊盈子

筍は掘らむところには出でぬなり。先様都合に顔を出すなり。 もぐら
喰はれむ、と出でし竹の芽ならねども、大人の竹を喰ふを得ざれば。 もぐら


158.5ゆでたまごの殻をつるり、と剥きし人は、ああ美しき人を娶りつ。 駒田晶子

ゆでたまご殻を綺麗に割りて呉るる女性を、我は娶らまほしかり。 もぐら
餌付けせしゆゑに仕方はなけれども、朝昼晩とも飯は作らず。 もぐら


166.2おもしろい歌とは、技のちからもて心そっくり現わす歌だ。 奥村晃

面白き歌とし言はは、それなりに頭も金も遣ひし歌なり。 もぐら
頭良き人の作りし佳き歌を、馬鹿は判らず、詰まらぬ、と言ふ。 もぐら


172.1自が家を持たず逝きたる夫のため、惜しまず建てしふるさとの墓。 岡田晶子

東京に墓移す人の多ければ、空き墓お安く、と寺は言ふなり。 もぐら
生前に墓建てたれば、安心と思へど、守るべき人如何に。 もぐら


177.7人の非を責めるばかりの人と居て、長所を見やうよ、やんはりと言ふ。 島田洋子

欠点を見ぬ振りすれど、実は見てゐて、何処かにて報ひ来るなり。 もぐら
褒められしことは忘れで、叱られしことはすなはち忘れたきなり。 もぐら


歌壇2008/09


短歌研究2008/08 [65]
投稿者:[ もぐら ]  投稿日:[ 2008年09月01日(月) 21時08分33秒 ]



9.2品川に別れし兄は還らざりき。還らねば、とはのいくさびとにて。 島田修二

戦嫌ひゐし人のみの還らずて、好む人のみ生き残りゐる。 もぐら
還ることなかりし兄は若くして、老いゆくままの我ぞ悲しき。 もぐら


10.2さねさし、の意味知らぬまま、走水媛を讃へしふるさと相模。 島田修二

総のくにと相模を隔つ海原は、波立たずしてけふも晴れたり。 もぐら
巨船多く通過しゐたる水道を、衝突もせでフェリー行くなり。 もぐら


12.3麦秋のひかりに麦を扱きゐたり。忘れ得ぬ母の姉さまかぶり。 稲葉峯子

母が姿わずかに留めし写真焼け、心の中に残るのみなり。 もぐら
むぎ秋のころふるさとに思ひてし初恋、けふは思ひ出でけり。 もぐら


15.6腰まわりを痩せさせ、青ずみむんむんとおとこ山なり、岩木山なり。 小嵐九八郎

おとこ山、険しけれども、おんな山の広さ高さに勝らざりけり。 もぐら
岩木山に雪消え林檎の花開く頃、知り初めし恋ひ心はも。 もぐら

16.3ボーイング、ひるの月より仄かなるしろがねは、空に人を搬べり。 島田幸典

窓が下にちひさく白く光る屋根。我が街我が家なり、と思ひつ。 もぐら
飛行機恐怖症ならねど、我が屋根の空高く翔ぶ怪鳥おぞまし。 もぐら


18.5はつ夏のトロリーバスに乗りこみし、むかしむかしの亡霊のわれ。 佐伯裕子

明治通りトロリーバスの走りゐし、と知る人は今稀となりたり。 もぐら
ガソリンの値騰り東京温暖化ゆゑに、再びトロバス走らむ。 もぐら


19.4新線の開業祝う旗などがいっせいに揺れ、揺れて静まる。 佐伯裕子

副都心線は事故ばかり多くして、ちっとも速くならぬぞ口惜しき。 もぐら
新宿はかかる地下街ありし、とふことの知らるる副都心線。 もぐら


23.2三年ぶりに箸を持つ妻。ゆっくりとたしかめながら指添へてゆく。 桑原正紀

左のみにては使へぬ箸といふもの。幼時より訓練すべきを。 もぐら
久しぶりに右手動くやうになりてみれば、箸扱ひも忘れてゐたり。 もぐら


25.6はらわたのごとくぬくとく濡れてゐる雑巾踏みたり、未明の厨に。 島田修二

知らずして厨の闇に猫を踏む。冗談ならず、と猫噛み付きつ。 もぐら
ごきぶりを踏みしことなし。ゆゑにかかるピアノ名曲あるを知らずも。 もぐら


28.2そこに出てゐるごはんをたべよ、といふこゑす、ゆふべのふかき奥より。 小池光

例の如く寝坊が妻の朝支度、昨夜に済みしがめでたかりけり。 もぐら
珍しく朝起きせし妻。訳聞けば、貴方の鼾寝られません、とふ。 もぐら


29.1天敵をもたぬ妻たち、昼さがりの茶房に語る、舌かわくまで。 栗木京子

鬼のゐぬ間の洗濯に精を出す女ら、雷様は近づく。 もぐら
鬼ばかりゐる世間ゆゑ、たまの休み昼より湯に入り伸び伸び過ごさむ。 もぐら


30.3わたくしに恐怖は、いつも新しく皿にひろげるうすいトマトを。 加藤治郎

トマト酒といふに、ひたすら透明にしてなほトマトの味する不思議。 もぐら
ライトとふビール色するビールなれど、アルコール無く麦茶の如し。 もぐら


30.6人ひとり往んぬ。真昼の皿のうへ、鴬餅のきなこ散りけり。 横山未来子

鴬餅喰ひ散らかして往にし客。隣へ行かば柿を喰はむか。 もぐら
客すべて喰ひて往にける菓子盆をみて、我が娘泣き出だしけり。 もぐら


32.3をみな子のつひの心は夫に頼れり。叩かれて吾は泣きつつ思へり。 今井邦子

おたがひに頼り頼られ夫婦道。かくしてDVの種尽きずなり。 もぐら
共にゐてたがひに安心なり、といふ夫婦の道はかなしかりけり。 もぐら


32.6悲しみてひとり来たれる現身を、春の潮のおとは消たむか。 斎藤茂吉

海原に漂ふ春の潮音を聴くをし得ざるの、老いの耳なり。 もぐら
もの思ふこと無き耳にも聴こえくる、伊豆の小島の春の潮かな。 もぐら


34.4みづからの胸に乳房を夢想して、少年が着る姉のブラウス。 花山多佳子

フェチならむかと恐れゐる我が息子、姉が下着を見つめゐるなり。 もぐら
アイドルのそれならずして、姉がもの、と思へばブラもエッチならざり。 もぐら


36.2ことさらに泣かすにや、子に倦みしにや、かたはらにゐて手もやらぬひと。 若山牧水

燥にして子をなし欝に子をあやむ、母とふものはかくてあるなり。 もぐら
歌つくるやうに我が子の面倒を見るを得ずして、けふも暮るるなり。 もぐら


37.1児に乳をふくまする時、ふとも来てあとかたもなくきえゆく愁。 若山喜志子

子を生して、始めて憂き世に為すべきのこと見いだせし心地しにけり。 もぐら
乳を含むことなき児は無し。乳を含まするを好まぬ母はあれども。 もぐら


37.3整然と諭せる己が父親を哀れむごとく、息子は黙しおり。 永田和宏

父親が理路と我が理路、整然と交錯しゐて果つることなし。 もぐら
整然と間違へゐらしき父が論理、聞きつつ人生儚し、と思ふ。 もぐら


37.4湯に入れて丸ごと洗ひてやりし子か、わがもの言へば身をかがめ聞く。 河野裕子

母の背丈超えにし娘、笑ふときは幼きころの顔つくるなり。 もぐら
母が背丈のみならずして、母が体重さへ超えける娘かなしも。 もぐら


37.5この頃は、髪も肩さえ触らせてくれぬ娘を本気で憎む。 永田和宏

父憎むなどと言ひ初めし娘、ひょこり、父似の男を連れ来たりけり。 もぐら
いつの間にか父似の仕事を始めける、子には如何なる遺伝子ありしや。 もぐら


37.6まだ少しこの子はわが辺に居れる子よ。触りしなやかな垂り髪を撫づ。 河野裕子

長き髪の生ふるがままにゐし頃の娘がことを、なほもし思ほゆ。 もぐら
寝癖悪き娘なりけり、ロンドンのデビュー写真も髪そそり立つ。 もぐら


38.4わが理解越えゐる娘、といふ母と夏の終りの花火見てゐる。 米川千嘉子

我が理解越えてはをらぬ、と思へども、思ふがままにはならぬ我が娘。 もぐら
理解せし、と思ふときには、我が理解超えてのだめは進みゆくなり。 もぐら


38.6さくらさくら桜生みたる父母を、わが父母といつかおもへる。 水原紫苑

父母の植ゑ給ひける桜樹の齢は、既に我を超えゐる。 もぐら
桜咲くを好まずありし父なれど、花の頃にはいつも思ほゆ。 もぐら


41.3長谷八幡鳥居のうちに君と棲む、たったふたりとなりたるわれら。 永田和宏

家族とふ、いつもゐるやうで、いつまでもゐるわけでなきもののかなしさ。 もぐら
神主が家に嫁ぎしが百年め、精進潔斎しつづけとなる。 もぐら


42.1マタイ受難曲そのゆたけさに豊穣に深夜はありぬ、純粋のとき。 近藤芳美

音楽は潔きものとふ思ひ込み。のだめ恐怖症の因なり。 もぐら
ステージには何もなけれど、自宅にてはさきいか段ボール不思議にあらず。 もぐら


44.2産まざれば喪はざりしわれは見き、ピエタの像の深きしづもり。 三国玲子

マリア信仰の深きを我等しらず、観音信仰、近しとしても。 もぐら
喪ひしものをし我も持つがごとく、始源なるをしマリア知り給ふ。 もぐら


46.2濃淡にまた斑にと陽はわたり、椎の切株くふくふ笑ふ。 小黒世茂

嘆きとは斯くの如くにありにし、とぶな森黒き切り株を見つ。 もぐら
昼は嘆き夜は笑ふがごとくなる、ぶな森深き里に棲みけり。 もぐら


48.5小学校の庭を覚えて佇むに、声掛くる日本語のありて惑う。 近藤芳美

異邦人の如く過ごせし疎開先国民学校、地震に遭ひし、と。 もぐら
覚へゐし国民学校校庭の巨大椎の木、今もありとふ。 もぐら


50.1白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒は、しづかに飲むべかりけり。 若山牧水

水の如く清浄なりけるフラスカーティ。妻と飲みしを天恵となしたり。 もぐら
ウォトカの香り高きのひとしづく、我が口中にしみ渡りけり。 もぐら


50.2三十代日々熟れてあれ、この夜のロゼワインわれを小花詰めにす。 松平盟子

あらぬことを言ひ散らかして花のごとく、人と飲みゐしワイン極まれり。 もぐら
人と飲むワインに心極まれり、独りで飲みゐる酔いにはあらねば。 もぐら


51.1酒飲めば心和みて、なみだのみかなしく頬をながるるは何ぞ。 若山牧水

共に酒を飲みて呉るるの人なくて、めっきり酒量も減りにけるかな。 もぐら
うた人はまぼろしなれど、酒呑まば、共にゐるがのごときここちす。 もぐら


53.1晩酌をおぼえしわれは、キリン淡麗グリーンラベルが一本で足りない。 永田紅

スピリッツ文化を知らぬ日本人ゆゑに、ビールはビールばかり飲む。 もぐら
晩酌の進歩形態ならむかも、キッチンドリンカーの域に入りけり。 もぐら


54.3うす雪をかづけるくるま過ぎゆけば、見下ろしの街鮮しくなる。 雨宮雅子

屋根に雪を載せたる貨車、とふ見ずなりて、ガソリン税は値上げさるるなり。 もぐら
雨に濡れし路面を見ては、今降雨と思ふのみなる高層ホテル。 もぐら


57.2冬やまの痩せたる襞におきわたす、寝雪の光きびしこの国。 生方たつゑ

国のいづこなりともそれなりの暮し立つ、やまとの島はうまき里なり。 もぐら
砂漠なく、氷雪地なく、ジャングルもまたなきやまとの邦はうるはし。 もぐら


57.6ゴビはいまも苦しむ大地、皺深し。文明は行き行きてここに止まらず。 馬場あき子

牧羊がゆゑに亡びし大地、今ゴビ砂漠とて人を苦しむ。 もぐら
羊共の喰ひ尽くしたる草地、やがて砂漠となりて再生はせず。 もぐら


59.2黒蟻はわれの影より這い出して、その後しずかなり、われの影。 江戸雪

きのふ我より別れにしひとひらの影、けふ咲き初めし花となりけり。 もぐら
散りすさぶ花の影へと紛れゐし我がいのち、けふ何にならむか。 もぐら


60.1若ければ女はかなし、自からの知らぬに君を誘ひしてふ。 原阿佐緒

女ゆゑの色気は如何に、と女しらず。男の知れるは真にあらず。 もぐら
我に色気ありとふ男ら何も知らずなり、とは思へど、人は忘れず。 もぐら


64.5暴力のかくうつくしき世に住みて、ひねもすうたふわが子守うた。 斎藤史

前世紀遺物なりける戦争を、なほもしたがる愚かもの共。 もぐら
戦争を止めむとふ声つねに弱く、せむせむといふ声たけだけし。 もぐら


73.3水の面のゆらめき淡く、一匹の大蛇が己を忘れて眠る。 田中教子

忘れし、の心なければ、春の蛇の這ふにも人がことをし思ほゆ。 もぐら
毒蛇どこぢゃ。探して見れば、都心なるマンションにて飼ふ気違ひゐたり。 もぐら


75.4「動物のおっぱい」といふ児童書に、ヒトの乳房も描かれてゐる。 田中教子

自然界に最も凶暴なる獣、とて顔を出す孔一つあり。 もぐら
人間は動物の一種、と教ふるを、こばむ親らもやはり動物。 もぐら


76.13好きになる要素がなくて好きになる。「変」だ、と思えば、半分は「恋」 佐々木博章

変すい、を覚へゐる人減りにければ、ギャグにも使へずなりにけるかな。 もぐら
変すい、は懐かしきかな、みづからの青春時代と重なりゐれば。 もぐら


77.16たちどころに願いの叶う、アラジンの魔法の百円ショップの灯り。 鈴木香代子

それらしきもの並べども本当に欲しきもの無き、百均ショップ。 もぐら
急ぐときに役には立たず、朝遅き開店時間の百均ショップ。 もぐら


78.4現金過不足追跡表を持ち帰り、原因不明の原因をさぐる。 山本枝里子

辻褄は合へども、浪費は止まらず、と。役人とふは何処にもゐるなり。 もぐら
役所以外、会社にもゐる役人は、浪費を仕事と思ひゐるなり。 もぐら


82.2いちはつの花咲きいでて、我目には、今年ばかりの春ゆかんとす。 正岡子規

それぞれの花咲き出でて、それぞれの春それぞれに来たりけるかな。 もぐら
春は花、秋は月とてかなしきを、眺むるのみなる人の世なりけり。 もぐら


83.3袖ひちて、むすびし水のこほれるを、春立つけふの風やとくらむ。 紀貫之

漕ぎ出でてみればのたりと潮揺るる、海原春の気は立ちにけり。 もぐら
知らぬ間に往にし春かな、追ひて漕ぎ出だせば、のたりと潮揺るるのみ。 もぐら


86.11行けば叱られ、行かねば叱られし四十年。小暮政次は複雑なりき。 石井登喜夫

次に来むときにはこれを叱らむ、と溜め置き、来ねばまた溜まるのみ。 もぐら
叱られに来るのみなれば、可哀さうなり、とたまには褒めてやらうか。 もぐら


87.7春紫苑の白き頭花に、通園の一人触るれば、みな触れていく。 角谷絵鈴

子らは同じチューリップ色なる帽子かぶり、裏山菜の花求め登り来。 もぐら
あまりにも幼きゆゑか、桃色の上っ張りなる、先生負ひ来。 もぐら


108.1をさな児の遠足のごと、級会にバッグはこれと決めて寝につく。 阿部純子

イミテーションなれどもブランド品バッグ。見てわかる人無ければ好し、とす。 もぐら
卒業後、富みたる貧しきそれぞれにゐて、なほ人品は変らずありけり。 もぐら


108.5年齢に関係なし、と言ひくるる嫁に押されて合唱つづけむ。 阿部純子

ママさんコーラスは、何時しか婆さんコーラスとなりても、恋の歌うたふ。 もぐら
一年に一度第九を歌ふとふコーラスありて、歳暮るるなり。 もぐら


109.3わが歌集の初校ささぐるやうに持ち、配達員立つ春の門口。 大井田啓子

校了と共に弊社に振り込め、と驚く額の請求書来る。 もぐら
最近はすべてディジタルpdfなれば、朱入るる余地はこれなく。 もぐら


110.14方舟を見送るわれのかたはらに、少年薔薇の花食ひちぎる。 若菜邦彦

宗匠が五月雨集めて往に給ひければ、我等の夏は暑しも。 もぐら
ホモ気とふものはなけれど、少年のころより薔薇の花恋ひゐたり。 もぐら


132.1菓子一つ与へしのみに、わが後姿見送りつづける犬よ、切なし。 松岡ハルコ

給料を上げよ、とあれだけ嘆願したれど、上ぐれば、ふん、とふ顔す。 もぐら
時給より正社員化をせよ、と言ふ。経営者としては難問なりけり。 もぐら


134.1病む夫の昼をねむりている部屋に、柱時計の刻きざむおと。 金井じゅん子

何クールめかは忘れし抗癌剤、効きめはあり、と生きてゐるなり。 もぐら
副作用副作用、とて恐ろしきなれども、生きてをれば、のことなり。 もぐら


136.17まっすぐな椅子に坐れば、まっすぐな気持ちになるか、とすわってみたり。 竹村公作

リクライニングは楽なりと言ふ迷信。腹つっぱりて居心地悪し。 もぐら
背まっすぐに延ばしてゐるが楽なり、と思ふに苦し、リクライニング。 もぐら


138.4括られず剪定されず手折られず、道端に咲く野茨の自由。 岡村照子

しみじみとひとつ咲きゐる野の薔薇は、華やかならねど人恋ひしかり。 もぐら
ひと恋ひはきのふまでにて止めにし、と言ふも儚き枯れ野薔薇かな。 もぐら


139.11薄く小さき保険証届く。後期とふ文字うるほひもやさしさもなく。 岡本正子

役人のご都合ゆゑの後期前期、定年なくせば、改善せむか。 もぐら
役人とふものの定年短くて、長期展望のぞむすべなし。 もぐら


142.6常臥しの夫の視界に屈まりて、今宵の満月共に仰ぎぬ。 岡田ミツエ

明月を取れとせがみしころの父、なほもなつかしけふの満月。 もぐら
名月を追ふとて池に入りし子よ、仲秋なればまた帰り来よ。 もぐら


144.28バスケットボールになるまで、数か月キャベツは芯に花抱き居り。 福田恵子

やうやくに花茎出さむ、と思ひしに、喰はれてしまふキャベツあはれなり。 もぐら
トンカツをキャベツの上に並べつつ、我がふる里の豚共を思ふ。 もぐら


149.1君のこと、もっと知りたい話したい。氷見から能登へ渡る道程。 畠山拓郎

伏木港、ロシアの窓口なり、といふ。その雰囲気もなく不思議なりけり。 もぐら
ロシア船なればか食毎ロシアスープ。塩少なきが嬉しかりけり。 もぐら


149.21地主たりし頃しのばせて、美しき死に装束に姉は飾らる。 太田すめ子

残されし者らの嘆きももの要りも知らで、仏は笑み給ふかな。 もぐら
大地主たりし名残は門構へのみにて、今はあとかたもなし。 もぐら


152.3優しげに家庭介護が良い、と言ふ。誰が看るかにふるることなく。 奥田里人

日本人並の給料払はずに、日本人並の介護求む、とは。 もぐら
給料の安いが良いとふ経営者。良き労働者集まるはずなく。 もぐら


155.1周りにひと幾たりあるも孤独なり。地面をみつめ佇みてをり。 菱沼恒夫

人多くゐて孤独なる都会、人は少なくたがひに親しき田舎。 もぐら
こころ開くすべ失へばすべて孤独。聞く耳無きも孤独なりけり。 もぐら


6.11シャンプーの有効期限がきれたから、きょうもだれにもあいにいけない。 原麻理子

シャンプーの賞味期限より、我が髪は白髪交じりの賞味期限切れ。 もぐら
シャンプーがなければ、代りに洗剤をもちて洗へばごわごわとなる。 もぐら

短歌研究2008/08


小梅さん [64]
投稿者:[ もぐら ]  投稿日:[ 2008年08月05日(火) 16時27分00秒 ]

小梅さん
www.geocities.co.jp/Bookend-Hemingway/7084/


銀色のスープが煮えます。どこまでもコトリコトコト無口なふたり。

いつ切り出すか、だけに煮詰まっている「もう別れよう。」というコンソメスープ。 もぐら
倖せ、と思ひしことは無けれども、元妻作りしスープの味はも。 もぐら


しあわせのスポンジみたいなたよりなさ。かなしむこころたのしむこころ。

あの人のご機嫌次第の好き嫌い。そんな貴方に愛のリハビリ。 もぐら
ご機嫌に従ひ膨らみ凋みするものは、私のBからDカップ。 もぐら


白玉だんごさん [63]
投稿者:[ もぐら ]  投稿日:[ 2008年07月28日(月) 22時10分49秒 ]

sdango.hp.infoseek.co.jp/index_tankabn_tou.html
白玉だんごの一首・結社誌「塔」掲載歌


小学生の朝の仕事にもはや無き、勤めの父の革靴磨き。

リストラに遭ひてよりのち、娘らは父のパンツを洗はずなりぬ。 もぐら
新しき靴履かれずに古り行くをみて、倒れにし父を悲しむ。 もぐら


右上からボールが壁に跳ね返る、あの字が「K」か、と七歳が問う。

ボール軌跡の形眼底に残しつつ、我が甲子園の夢は消えたり。 もぐら
ボール壁に当て軌跡など考えしなりとふ神童。親馬鹿なりけり。 もぐら


五歳児は力説したり、草取りは取るにやあらず草抜きなりと。

淡雪の消え残りたる野にいでて、蓬草採る、子と喰はむため。 もぐら
吾子よ、今春の浅きを如何にゐるか、蓬摘みしを忘るるなゆめ。 もぐら


忌憚なき評求めしが、ねぎらいと褒め言葉満つる、縫い物の会。

現身にしあらば成人式の晴れ着ならむ、と頼まれ訪問着縫ふ。 もぐら
花模様少し身頃に欠けけるを、採寸悪し、と師匠怒りつ。 もぐら


室内で傘振り回す、甘えたき六歳、棚を上手く避けおり。

茶の間にて姉の長刀降り回す妹、神棚がちゃんと落としつ。 もぐら
わが家にて振り回す分には良けれども、秋葉原にては鞘に納めよ。 もぐら


摘む人の無き茶畑の畝かすみ、斜面貫くリフト動かず。

婆様の作り給ひし茶畑も、今山茶花の花や咲くらむ。 もぐら
扇風機廻りをれども遅霜のそれよりまして厳しかりけり。 もぐら


海外で通じぬマナー。場所取りの傘や上着は、盗まるるのみ。

常盤線古来の悪習場所取りは、TXにも残りたるかな。 もぐら
無作法も、マナーと言へばそれなりにもっともらしく聞こゆる不思議。 もぐら


「製造の責任者ゆえ誕生日を祝う。」と、父より長距離電話。

賞味期限二百日とふを盾として、だんまり決め込む元夫かな。 もぐら
親とふは責任取るべくして取れぬ、なまなましき存在にてあるなり。 もぐら


乳母車来てすれ違う遊歩道。何か言わねば、笑顔向けねば。

公園にデビューさせむ日近ければ、スーパー通ふも愛想良くなれり。 もぐら
うちの子を穴のあくほど見つめては、声も掛けずに過ぎし人はも。 もぐら


同好の士らが集いて、歌だけを話題に四時間、飛ぶように過ぐ。

歌、と聞きて、短歌の話題はそこそこに、皆連れだって徹夜のカラオケ。 もぐら
カラオケは松健サンバに始まりて、林檎の歌にてお開きとなる。 もぐら


わが歌への評価指摘をまとめれば、推敲もときに蛇足と学ぶ。

推すも引くも、結局木戸が開けば良いのでしょう、と言ふ師匠賢し。 もぐら
推敲をすればするほど改悪、に。結局初心、忘るべからず。 もぐら


店頭でわが名を見つけ、短歌誌をレジに差し出す手の震えおり。

初投稿掲載されしは、ビギナーズラックと言ふより師匠の厚意。 もぐら
年間予約になさい、と店員は言へども、その内飽きると思ふ。 もぐら


子の髪を梳きととのえて共に寝る、わが黒髪にかわく間もなし。

孫が髪を洗ひてをれば、お返し、と我が白髪を洗ひたがりけり。 もぐら
濡れし髪の乾く間もなくい寝し子に、我が手の団扇なほ動きたり。 もぐら


ビギナーズラックも過ぎて、奥深さ知り始めたる短歌の世界。

千年の歴史を背負ふ和歌なれば、我また年を取りしが如し。 もぐら
人は人、歌は歌とて変れども、こころの変らざるぞ嬉しき。 もぐら

歌壇2008/07 [62]
投稿者:[ もぐら ]  投稿日:[ 2008年07月20日(日) 20時01分06秒 ]


・2.1死者、生者。分かずつどへる花櫓。うたげの酒の酔ひ痴れて候。 岡野弘彦

酔ひて死せし人、なお酔ひつつ生きゐるを、そねむがごとく花散らすなり。 もぐら
酔ひ初めて酔ひ深まりて酔ひて死すと雖、三途の水に酔はなむ。 もぐら


17.6身にもらう仕事ひとつをなしおえて、八分音符のためいきひとつ。 玉井清弘

全休符ばかりのパート譜眺めつつ、出番少なきエキストラかな。 もぐら
チェレスタの譜面を見つつ、初見にても弾けたものを、と悔しかりけり。 もぐら


22.2エレベーターに吊りあげられてゆくときに、知られず草履の足を踏ん張る。 久々湊盈子

エレベーター下降時にては、我がメタボしばらく軽減さるるを楽しむ。 もぐら
エレベーターしばらくメタボ解消す、とは言ふものの固有質量。 もぐら


26.5酔ひたくなく、飾りたくない若いひと。ほそやかに照る楓の若葉。 米川千嘉子

おさぼり系、酒は呑まず、の定理そのまま無能なる若者ゐたり。 もぐら
酒ゆゑに学校来ぬは昔がたり、今来ぬゆゑは、ゲームにネット。 もぐら


39.2なんとなく女になりうる心地して、菜の花の村に雪ふるを見つ。 前登志夫

勉強は多々したれども、女、所詮何考えゐるかは結局判らず。 もぐら
たいしたこと思ひゐるにはあらずとも、女の考へ、男に判らず。 もぐら


49.4凍てる星のひとつを食べてねむるべし。死者よりほかに見張るものなし。 前登志夫

我が喰ひて散らかしにける星屑の、銀河あたりの岸に漂ふ。 もぐら
エンゼルのデザートたらむ七つ星、盗みて地球に帰りけるかな。 もぐら


55.7木木の芽をぬらして張るの雨ふれり。それ以上のことあり、とおもへず。 前登志夫

あたりはずれあるべきものを、気象婦の、空みたことか、と言ひてやらまし。 もぐら
轟と鳴りて久方ぶりの夕立、となりけり、動けぬ我をし置きて。 もぐら


89.2底なしに光を呑みて緑ふかし。公孫樹も鬼子母もなほ世に生きて。 春日真木子

鬼母と言ひて言はれて何万年、人類全く進歩とふ無し。 もぐら
子育ては面倒、と言はぬ母は無し。されどもりもり取りて喰ふとは。 もぐら


99.1空家に入り煙草をのみたることありき、あはれただ一人ゐたきばかりに。 石川啄木

くさしださし、などと言はれて、なほも吸ふ人のこころは悲しかりけり。 もぐら
タポスカードとふ無きころの小学生、吸ひ初めたるを咎めし人無し。 もぐら


101.1ばら色の雲に時間をのせおかむ、少女とキャベツスープをすすり。 寺山修司

宵越しのスープは冷めて塩増して、啜るよしなき朝ぞ悲しき。 もぐら
少女今はおばちゃんとなり、塩多きスープ毎晩作りをるべし。 もぐら


108.3谷川の早瀬のひびき。小夜ふけて慈悲心鳥は啼きわたるなり。 島木赤彦

きのふまで鳴きゐし小鳥今朝は聴かず、世果てしごとく悲しかりけり。 もぐら
悉く雷雨は行きて、ぶな森の小鳥ら午後をことほぐ如し。 もぐら


121.6「ならぬことはならぬ」としばしば父言ひき。今さら教へに背く気はなし。 雁部貞夫

ならぬこと、と師の言ひ給ひてしことを、毎日しゐることとなりたり。 もぐら
ならぬ、とは、真理ゆゑにか時流ゆゑか。変り得るもののひとつなりけり。 もぐら


123.7棒アイスの棒にあたりの「あ」の見えて、河童忌の日は暮れはじめたり。 駒田晶子

リサイタル棒ねぎホール。説明が無ければ訳者も判らうとせず。 もぐら
だじゃれとは作者の智恵の象徴にして、また訳者泣かせなるなり。 もぐら


125.3鈴の音にめざむる人よ、墓石の下はてしなき花野はありや。 佐藤弓生

千風となりて漂ひ給ふ人よ、せめて彼岸は墓地にゐ給へ。 もぐら
ゐし人のきのふのことなど思ふことの失せける、暑き彼岸どきかな。 もぐら


128.1常滑のメタボ黒猫腹ゆすり、われを見上げる。人なつこくて。 松村あや

信楽の駅より続くめたぼ狸、めたぼ狸は平等院まで。 もぐら
信楽の駅前にゐしめたぼ狸、二十年経つ今売れたらむか。 もぐら


130.3逝くもあり、廃業するあり、戦列に留まるだけで、よし、と思ひぬ。 山村泰彦

一杯のコーヒに一生賭けし、とふ。廃業マスタへ餞と為す。 もぐら
突然にやる気失ふ女主人。これまた食ひだおれかも知れず。 もぐら


133.3日本郵船、つまり符丁が<フネ>なれば、ポスターのなか笑む磯野フネ。 和嶋勝利

二十万トンに、巨大文字NYKとありて、豊後水道昏れゆく。 もぐら
便宜置籍船ばかりなれば、NYKとふブランドに希少価値あり。 もぐら


144.6少しずつ母の希いにたがいつつ、母の晩年を生きて居しかな。 我妻泰

母しあらば、何思ひ給ふか知らむ、とふ心薄れて、三三忌なり。 もぐら
問ひ給ひたきことも何かあらむ、など思ひつつけふ彼岸なりけり。 もぐら


147.3あの能なしのアララギ会員の教頭も可哀想だけど叩くことにする。 我妻泰

我を張りしのみにてひらめきの無き教師。今なほ健在、と聞きしが嬉し。 もぐら
商品県脅威といふは珍しく、誰たれこみたるかとふが知りたし。 もぐら


149.5校長は赤い、と言い、奴らは反動、という。立ちはだかりて吾は生きてやる。 我妻泰

赤は今反動となり、反動は今過激なるグローバリストなり。 もぐら
反動の赤のとあれだけ叫びゐし人なほゐたらむ、今何と言ふか。 もぐら


151.5やけくそのごとき心を見徹して目はあり、自転車を漕ぎつつゆけば。 我妻泰

やけとなりし我をし嗤ふ如くして、乗り行く自転車転倒したり。 もぐら
自転車は漕ぐものならず。重力に従ひ無摩擦滑り行くなり。 もぐら


155.5職変えて、一日妻のかたわらにある計画も空想に熄む。 我妻泰

リストラに遭ひてやうやく残業の無き夜を妻と過ごし得たりき。 もぐら
脱サラを誇りとすれど食ふを得ず。これまた一種の虚栄としぞ思ふ。 もぐら


156.1あくがるる心は、さても山桜ちりなむ後や、身にかへるべき。 西行

マルクスがもしも吉野の山桜見たりとせば、世変りゐたらむ。 もぐら
花賞づる人追ひ出して入場料。山法師にも資本家ゐたり。 もぐら


161.7防寒のマスク外せば、しみて甘し。瀧の匂いが鼻孔を浄む。 松平盟子

マスクすれば防菌とふがそれは嘘。息苦しくて口開くゆゑ。 もぐら
マスクすれど、都会一日の喧噪は、澱の如くに喉に溜りたり。 もぐら


166.1試験管のアルミの蓋をぶちまけて、じゃん・ばるじゃん、と洗う週末。 永田紅

実験は料理の如し、と。さなりさなり、双方の材料混同せねば。 もぐら
音系は理系と異なり料理下手。典型のだめのごとしと思ふも。 もぐら


171.7物言はぬ母への看とりの挨拶は、額付け合ひ温もり交す。 林本政夫

往にし人の何か言ひたきことあらむ、と思ひしかども、笑み給ふのみ。 もぐら
口下手にありにし我が身の少年期。母譲りなり、と思ひけるかな。 もぐら


180.5そのさきへは行けぬ径なり、菩提寺の山門春の雪侍らせて。 南部千代

我が先祖様は、行き得ぬ雪道の奥にゐ給ふなり、と遅彼岸。 もぐら
幸いに震度五強にて崩れず、と雖、五尺の雪に埋みたり。 もぐら


歌壇2008/07

白糸雅樹さん [61]
投稿者:[ もぐら ]  投稿日:[ 2008年07月04日(金) 09時45分11秒 ]



homepage3.nifty.com/masaki-maho/sakusaku/2_1.htm

白糸雅樹

閉ざされた言葉


まっしろな兎の耳を一結び。眠る気持ちになれないならば。

現代、といふ意味不明の難問を解かずにけふはねむってしまはう。 もぐら
白兎、生きても死んでもしろ兎。月にて餅搗くのも白兎。 もぐら


言霊という背後霊あまたいて、今日もわたしはでんぐりがえり。

一語にはひとつの意味しか無し、といふ単線思考は悲しかりけり。 もぐら
意味の無いことばもあるのに。ことばの無い意味もあるのに、単線思考者は。 もぐら


灯台のように、夜のコンビニのように、どこかでひかっていてよ。

省エネになるから終夜コンビニは閉店せよ、と。無能役人。 もぐら
あてにして居たコンビニはつぶれけり。朝おにぎりはいづこにか買はむ。 もぐら


泣かないでアンドロギュノス。ぼくたちはもうかえらない背中のくぼみ。

同一性障害なり、と。人間に同一クローンあるはずも無く。 もぐら
責任を社会に冠せて、なんのかのと言ふは易しと思ひけるかな。 もぐら


誰を呼ぶ? けぶるかげとにみちをまよい、午前一時のかなかなが呼ぶ。

いくら呼んでも、呼んでも聞こえない。きっと宇宙の中心なのね。 もぐら
きのふよりけふ呼ぶごとくにしぐれゐる、夏のなごりの蝉の声かな。 もぐら



嵯峨さん [60]
投稿者:[ もぐら ]  投稿日:[ 2008年06月29日(日) 15時29分29秒 ]


嵯峨直樹の短歌のページ

www.asahi-net.or.jp/~cq3n-sg/tanka.html


ひぐらし

バス停はひどく拉げて、郊外の夏の光を複雑にする。

何処行きが来るかは知らぬバス停に、時刻表さへはがれて無かり。 もぐら
幽霊の五人ほど乗るバスの来て、地球のガソリンなくなりにけり。 もぐら


三階は身投げするには低過ぎる。洗濯バサミの錆びるベランダ。

想定外なれば屋上に穴作る役人、誰が採用せしにか。 もぐら
取り忘れけるシャツパンツまた濡れて、更に綺麗となりにけるかな。 もぐら


僕たちは今ここにいて、失った未来を思いだそうとしてる。

過去さへも忘れ果てたる人類に、一体未来が考えられるのか。 もぐら
ことばでは忘れたなどという人の、実はしつこく覚えていたりして。 もぐら


遊園地の機械が廻る昼下がり。<なかったんだよ>突風は吹く。

観覧車ゆったりゆったり乗りにけり、昔の楽しさのみを思ひて。 もぐら
観覧車の中でキスをしていたら、ちょうど出口になってしまった。 もぐら


葉の影がせわしく動く緑地帯。この一点にわれを閉ざして。

ラーメンの一杯に、我が一日の生をし込めて啜りゐるなり。 もぐら
世間体のせいで名物塩ラーメン底まで喰って、七転八倒。 もぐら

われの内部の魚眼レンズに、かろうじてうつる人かげ。君かと思う。

魚の目の痛くありにし少年の日々に、こころに思ひし人はも。 もぐら
分解能悪き魚眼のアダプター、話しの種に、と買ひにけるかな。 もぐら


半袖の君のにおいがしたような、しなかったような、初夏の日暮れに。

匂ひフェチならぬ我ゆゑ、初夏も書架もただ憂欝の香りなりけり。 もぐら
はつなつは儚きレモンの香のみして、我が歳などは忘れけるかな。 もぐら

東直子さん [59]
投稿者:[ もぐら ]  投稿日:[ 2008年06月26日(木) 17時44分03秒 ]

生け簀

東直子


死にかけの鯵と目があう。鯵はいまおぼえただろう、わたしの顔を。

鯵開き焼かむ、とのだめの七輪は、電磁波五キロワットをだしゐる。 もぐら
鯵を開き干したりければ、如何様にするとも喰はるる人間の知恵。 もぐら


かたくなな耳をさらして、すこしずつあなたの記憶にはいりこみたい。

言ふことは耳に入らねど、されどなほ言はむのこころのみのある人。 もぐら
他人様のためにならむとふ心あれど、他人様の言ふことは判らず。 もぐら


あいされる、あいされないにかかわらず、小さき羊の張り子ゆれおり。

地デジより二秒遅れの警報の到りて、既に地震波去りたり。 もぐら
なにごとも、想定外とふひとことを以ちて、免責さるるといふ人。 もぐら


自転車を押しつつ、呪文のように言う。やさしいひとが、やさしいひとが。

パンクせし自転車押しつつ、世の中の不条理なべてを呪ひゐたりき。 もぐら
パンクさせし道はどなたの造りしか、どなたの儲けとなりしか、聞きたし。 もぐら


中央線、南北線に東西線、どこへもゆけてどこへもゆかず。

北、南、東に西に、武蔵、中、肝心かなめの浦和市は無し。 もぐら
開通時慌てて乗らむの気なけれど、いつか生活変はりてしまふ。 もぐら


水が水の重さかかえて落ちてくる。冗談だけが人生でした。

思ふばかりなれども言はずありけるを、わすれ草生ふと言ふ人もあり。 もぐら
落ちの無き落語聞きたくなけれども、話術話術と言ひゐる人あり。 もぐら


角川「短歌」2003年1月号
www.ne.jp/asahi/tanka/naoq/n_ikenie.htm



五夜

東直子


ゆくところあるか、と問えばあるという。淡い乳房を底よりあげて。

何カップかはしらねども、重さうにカウンタ左右駈けめぐりゐる。 もぐら
けふは何を拠り所とせむか知らねども、ひたすら乳房は揺るるままなり。 もぐら


あおあおと主観がくちづけている、脱字だらけの記憶のなかで。

誤字脱字溢れし記憶に証言をさす、とも判断面倒のみなり。 もぐら
口頭にて言はば誤字脱字無し、といへど、用語発音間違い多かり。 もぐら


シンゾウを使いつくして横たわり、ゼリードリンクふうに眠った。

腹減りを口実として眠らむとすれども、空腹、安眠せしめず。 もぐら
塩喰ひて心臓止まるは本望とせず。塩入るる人殺すべし。 もぐら


この街は、なんどもなんどもこわされて、雪のわきだす国になれるね。

重機音をあげて、我が住む街区、なべて石屑だらけの荒れ地となしたり。 もぐら
きのふまでゐ馴れし街は跡形もなく、地上げ屋の哄笑のみあり。 もぐら


ほどかれた荷物のようなやわらかい息つぎながら、あさをつなげる。

きのふよりけふに送りし荷物なほ着かず。明日まで我はあらむや。 もぐら
七つ寝て正月来む、と待ちゐてし、七つのころの懐かしきかな。 もぐら

「毎日新聞」2002年10月6日付
www.ne.jp/asahi/tanka/naoq/n_goya.htm




琴音さん [58]
投稿者:[ もぐら ]  投稿日:[ 2008年06月18日(水) 13時58分10秒 ]


琴音
homepage3.nifty.com/chigichigi/sakusaku/1_1.htm


定期試験終はれば吾子はひた眠る西から東へ影移りても

試験山、大あたりなり、と誇る子よ、カンニングなどせしにはあらじか。 もぐら
それとなく問題教ふる佳き教師なれども、学生聞く耳持たず。 もぐら


乙女子の買ひ物長しひらひらの服の後にはふりふりの服

某々誌おすすめファッションなれど、それ娘らそのほか何も知らずも。 もぐら
オイルマネーゆゑに最近イスラム風ファッション流行る、と。ベールもまた佳し。 もぐら


亡き父と同じ顔して我は子に聞き覚えある小言を言へり

我に小言いひ給ひてし父往にて、我が子に同じ小言いひゐる。 もぐら
叱り給ひける恩師とは異なりて、別のゆゑもて学生怒らむ。 もぐら


三泊の荷物はわりと少なめで物足りぬやうな少年の旅

枕カバー、寝間着、パンツに歯ブラシと、持ち歩く旅を卒業せぬ人。 もぐら
虎刈りに行くにあらねば、パンツなど世界各国スーパーにあらむ。 もぐら


去年よりも静かな夏になりにけり冷夏の蝉の鳴き声弱し

今年また冷夏なるらし、我が街もクーラー騒音聴こえ来たらず。 もぐら
ガソリンの値段も高く、米の値もまた高くして、気温のみ低し。 もぐら

  

歌壇六月号 [57]
投稿者:[ もぐら ]  投稿日:[ 2008年06月16日(月) 15時51分28秒 ]

12.3持ち時間みるみる乏しくなりゆくを。ねえ、誰かワルシャワへ連れていって。 宮英子

トランジットにてワルシャワを通りたり。さすが本場のズブロフカ旨し。 もぐら
再興はしたりと言へども、ワルシャワの街荒れ果ててゐるとし思へり。 もぐら


17.2おもふひと、天くだり来むはずなけれ、いつかはこの身ものぼりかゆかむ。 蒔田さくら子

我が身罷り出でて何処に行くか知らず。清浄天にはあらじと思へど。 もぐら
七十年生きゐたりしを、長しとは思はずなりたり、古希を過ぎゐて。 もぐら


29.4この上は笑うほかなき春であり、笑えば口に雪受けていつ。 谷岡亜紀

大声で笑えば春が来る、と言ひし児は今清浄天にて笑ふ。 もぐら
大口を開けて白雪を喰ひたらば、少しは腹も膨れむ、と思ふ。 もぐら


34.3のど赤き玄鳥ふたつ屋梁にゐて、足乳ねの母は死にたまふなり。 斎藤茂吉

母ゐしがときに鳴きゐし鳥のけふ、同じ声もて鳴きゐたりけり。 もぐら
きのふまで鳴きゐたりける鶯のけふはし知らず、春闌けにけり。 もぐら


37.7母忘れ、われの忘れぬ父のこと。眉山さらり、と描きて母来る。 米川千嘉子

人の世に、ちちははゐるこそかなしけれ、我また子にしてちちにもあれば。 もぐら
もの思ふことさへ知らぬ幼きのころにもゐ給ふ、母といふもの。 もぐら


39.9すこしづつ母ならぬものになりてゆく母なり、屈みて小さき背を抱く。 沢口芙美

母は母、いつになりても母は母なりし、とゐ給はぬけふもし思ほゆ。 もぐら
現し身にあり給ひけるころの母、今なほまなこの底にありけり。 もぐら


43.4弔問の客帰りたり。サーカスがいってしまったやうなさびしさ。 大村陽子

ご香典を給ふのみにて帰りたまひてしを、有り難き客と思へり。 もぐら
半返し、などとふ規則のありけるを、面倒の始めと思ひけるかな。 もぐら


43.7ああ、母は突然消えてゆきたれど、一生なんて青虫にもある。 渡辺松男

人類にちちははあれど、芋虫らおのれも同じと認識しゐるか。 もぐら
芋虫にあらぬ我ゆゑ、芋虫にあらぬちちはは、恋ひゐたりけり。 もぐら


49.1世にあらば、今日百歳の翁なる写真の父と酒酌み交わす。 諏訪部仁

父ゐし、と誰か知るべき、けふは我のみの知りゐる三十五回忌。 もぐら
父よりも数年長く生きて来し、などとふ誇るに足らざる倖せ。 もぐら


52.2さよなら、風にふくらむ胸のこのここに未完のままに父たり。 佐伯裕子

吹き行きて帰ることなき風の如き人の世なりき、父もまた我も。 もぐら
明日はまた別るる風も吹くべし、とけふ吹く風に別れ告げたり。 もぐら


53.2父といふ恋の重荷に似たるもの、失ひて菊は咲くべくなりぬ。 馬場あき子

寅さんが父にしあらば如何ならむ、矢切の渡しに風なほ蒼し。 もぐら
命日が何時かは定かならざりしほどに、ちちはは遠くなり給ふ。 もぐら


63.5「母さん」と庭に呼ばれぬ。青葉濃き頃はわたしも呼びたきものを。 佐伯裕子

青葉濃き森を歩めば、何処よりか父さん、と呼ぶ声を聴くなり。 もぐら
母の往に給ひしころの、緑濃き庭の光をけふなほ思ふも。 もぐら


68.5母逝きて百か日目の四月、けふわれは水車のごとく居りたり。 三井ゆき

逝き給ひける年月は忘るとも、ゐませし母がことは忘れず。 もぐら
我けふもなほゐることは、母がこの現世にゐし形見とぞ思ふ。 もぐら


74.1花ざくら詠むな、と言ふが、ひとひろのさくらか夢をわれに売りくる。 春日真木子

夢に見しさくらの花を詠みたくて、けふはし少しばかり早寝す。 もぐら
きのふより散りそめ給ひし花の神の、なごりのごとき春吹雪なり。 もぐら


89.2ふるさとの訛りなくせし友といて、モカ珈琲はかくまだにがし。 寺山修司

方言にて怒り給ひし友なれば、いつになりても有り難きなり。 もぐら
ケツの穴のちひさき男とののしられ、世に同類の多しとぞ思ふ。 もぐら


97.6会社支給の赤ペンを最大限に利用して書く、赤いうづまき。 石川美南

ほっぺたの蚊取り線香は変態の国への入り口なり、と知りけり。 もぐら
ばねとふに、スパイラルのと、ヘリックス、両方あるが混乱の始め。 もぐら


104.4人はみな取捨選択して一生了う。華麗なるバラ一輪開く。 諏訪雅子

選択も洗濯も、また忘れずにせねば、憂き世にゐられぬなりけり。 もぐら
洗濯を忘れにければ、せめてけふはこころの選択忘れずにゐむ。 もぐら


149.5年々に科学研究費にてなしし実験なれど、過ぎてははかなし。 添田博木杉

科研費のむなしき報告書を作り、去年も何とかなりし、とぞ思ふ。 もぐら
科研費の報告作るが気になりて、ろくに研究出来ずありけり。 もぐら


153.7真すぐなる心のままによく笑ふ、人の隣に居る心地よさ。 行本昭子

我笑ひ人笑はぬは、我、人と異なるこころを持ちゐるらしも。 もぐら
嘆くより笑ひは高級なり、と言ふ。たしかに下級の動物笑はず。 もぐら



歌壇六月号
本阿弥書店






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