古典短歌研究室

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 [301]
投稿者:[ もぐら ]  投稿日:[ 2008年10月08日(水) 08時04分15秒 ]


宸翰本和泉式部集  112



1580春雨のふるにつけてぞ、世の中のうきはあはれとおもひしらるる。

もの思ひの無かりし雨は無かりけり、まして花散る春のころには。 もぐら
我ひとり憂かりしなり、と思ひゐしに、世なべて憂しとふ春の雨かな。 もぐら


1581をしと思ふをりやありけむ、ありふればいとかくばかりうかりける身を。

ひとたびのうつし世なれば、いづ方へ往ぬとも憂さは憂きにてあるべし。 もぐら
あけくれはあけくれゆゑに、人の世のをしきはけふも変らざりけり。 もぐら


1582いかばかりふかき海とかなりぬらむ、ちりの水だに山とつもれば。

恨みゐし人のこころの今如何に、知らず早瀬も淵となりゐむ。 もぐら
憂しと思ひしころに流せし涙、今わだつみとなり板小舟浮く。 もぐら


つれづれなりしをり、..

1583ゆふぐれはさながら夢になしはてて、やみてふことのなからましかば。

見るべきの夢さへ無かりし夕べには、ただ寝るさへも虚しかりけり。 もぐら
明けむとてなほも明けざる宵の果てに、見る夢とても儚なかりけり。 もぐら


1584おしなべて春をさくらになしはてて、やみてふことのなからましかば。

春の女神さきはひ給ふ花なれば、夜の闇さへ白くしありけり。 もぐら
春は何時、と知らぬこころを嗤ふごとく、花ひとひらは散り給ひけり。 もぐら


1585みな人をおなじ心になしはてて、おもふおもはぬなからましかば。

我人を知るが如くに、人我を知らば、と思ひて叶はざりけり。 もぐら
我知りて、人はえ知らであることを、憎しと思ふことに馴れにけり。 もぐら


人にさだめさせまほしき事

1586いづれをか、世になかれ、とはおもふべき。わするる人とわすらるる身と。

忘れむとして忘られぬことよりも、覚えむとして忘るること多し。 もぐら
忘れじ、と言ひつつ忘れし人憎し。忘れもえせざる人また憎しも。 もぐら


1587なき人となして戀ひん、と、ありながら、あひ見ざらん、といづれまされり。

悲しきは人の身にして、世の人に忘れられゐてなほもあること。 もぐら
あり給ふ限りは恋ひむの契りゆゑ、明日の身知らぬ我し悲しも。 もぐら


あやしきこと

1588世の中にあやしきことは、しかすがにおもはぬ人をおもふなりけり。

思はじと思ひしがゆゑに思ふならむ。人の業はし果て無きものなり。 もぐら
叶はじの人恋ひなれど、命あらむ限りはさらむ、と恋ひ渡るなり。 もぐら

1589よのなかにあやしきことは、いとふ身のあらじとおもふに、をしきなりけり。

厭ふにはあらじとしても、厭ひ給ふ人のみ多き憂き世なりけり。 もぐら
もの知らぬままに厭ふとふ人多きゆゑに、憂き世と言ふにありけり。 もぐら


たのめたるをとこを、..

1590竹の葉にあられふる夜は、さらさらにひとりは寝べき心ちこそせね。

夢のごとありけるけふを忘れむとして、なほ夢を見むと寝るかな。 もぐら
ひとりして寝し夜もふたりゐし夜も、笹なる露は同じと思へど。 もぐら


人かたらひたるをとこの方より、..

1591いさや又かはるもしらず、いまこそは人の心をみてもならはめ。

ありあらぬことども書きし文のみの来て、さうじ身は来給はぬなり。 もぐら
心より来る文なれば、えもしらぬ文はしえしらぬ心よりならむ。 もぐら


たのめてこぬ人に、つとめて

1592やすらひにまきの戸をこそささざらめ、いかにあけつる冬の夜ならん。

ささむとてえささぬ柴の戸がゆゑに、来むとふ人は来るがままなり。 もぐら
柴の戸をさすかささぬかかつ迷ひ、きのふの宵は明けにけるかな。 もぐら


雨のいたうふるに、..

1593見し人にわすられてふるそでにこそ、身をしる雨はいつもをやまね。

忘れむ、のこころのなくて忘れしは、人ゆゑなれどなほも儚し。 もぐら
濡れむ、との心なけれど我が袖の濡るるは、けさ降る雨ゆゑならじ。 もぐら


世のさわがしきころ

1594物をのみおもひしほどに、はかなくて、あさぢがすゑに世はなりにけり。

あらむとて頼みし人の儚くて、力の絶えし如くに思ほゆ。 もぐら
あさまし、と思ひし男のきのふけふひひろぎゐるこそ憎くありけれ。 もぐら


1595しのぶべき人なき身にはあるをりに、あはれあはれといひやおかまし。

ひとことのあはれ言ひ捨て往にし人のあはれは、明日の水に流さむ。 もぐら
あはれ、とはきのふの夢と思ひなして、あすはし西の涯に消えなむ。 もぐら


ひさしくとはぬ人の、..

1596なかなかにうかりしままにやみにせば、わするるほどになりもしなまし。

忘れじ、と言ひてし人を忘れては、詮なきことのみ思ひ出だしつ。 もぐら
憂しとなし忘れむとせし人のなほ、けふは如何といふが口惜しさ。 もぐら


時々くる人の、..

1597ながめつつことありがほにくらしても、かならず夢に見えばこそあらめ。

夏の夜の夢に見てしを、現世の秋の涙に流しけるかな。 もぐら
思はじ、と思ひしことの夢に出づる、現世ゆゑの夏の宵かな。 もぐら


よの中いたくさわがしきころ、..

1598よのなかはいかになり行く物とてや、こころのどかにおとづれもせぬ。

ユーロ買ひポンド買ひしは高き折なりし、と今更悔やむ由なし。 もぐら
腹減りし人増えゆけば、世の中に怨嗟の声の満つるなりけり。 もぐら



和泉式部歌集 清水文雄校訂
岩波文庫 30-017-2 1976年6月30日 第12刷 岩波書店


 [300]
投稿者:[ もぐら ]  投稿日:[ 2008年10月04日(土) 20時04分05秒 ]


宸翰本和泉式部集  111



1559うしとおもふ我が身も秋にあらねども、よろづにつけて物ぞかなしき。

物思ふばかりの我とは知らぬ顔に、秋風今朝より吹き初めにけり。 もぐら
物思ふさへ憂かりける秋の夜に、人来むなどとふことづてありけり。 もぐら


1560人もがな、みせもきかせも、はぎのはなさくゆふかげのひぐらしのこゑ。

蝉しぐれ聴きゐしころは昔にて、今凩に時雨するなり。 もぐら
秋憂し、と思ふ間もなく、虫の声絶えて霜降るころとなりけり。 もぐら


1561たのめたる人はなけれど、あきの夜は月見でぬべき心ちこそせね。

月見む、と言ひてし人は来ずとなりて、来じと思ひし秋の雨降る。 もぐら
物思ひのみをしゐしにあらねども、月をしけふと思はざりけり。 もぐら


1562秋くれば、ときはの山のまつかぜも、うつるばかりに身にぞしみける。

西の国の人のこころゆ吹き出でしらしき秋風、けふ沁み渡る。 もぐら
ありやしらぬ人のこころを思ひては、ただ秋風の吹くに任せつ。 もぐら


1563秋ふくはいかなる色の風やらむ、身にしむばかり人の恋しき。

世は如何に、人のこころは如何にとて問へども、秋の風ばかりなり。 もぐら
染めむとてえ染まぬこころにありといへど、秋色ばかりは拒むすべなし。 もぐら


きくを

1564君がへむ千代のはじめのなが月の、けふ九日のきくをこそつめ。

八千代も、と思ひし菊の花さへも霜枯れにける師走どきかな。 もぐら
思ふままに咲きしが菊とは思はねど、咲かで散るらむ秋ぞ悲しき。 もぐら


朝がほ

1565ありとしもたのむべきかは、世の中をしらする物はあさがほの花。

きのふとは同じかほして咲きをれど、異なるものはあさがほの花。 もぐら
明日の朝は如何なる顔して起き出でむ、露しり初めしあさがほの花。 もぐら




1566なくむしのひとつこゑにも聞えぬは、こころごころに物やかなしき。

きのふまで鳴きしなれども、こほろぎを聴かずなりたる霜の朝かな。 もぐら
虫の身の露に濡れしがごとくして、脚も動かずなりにけるかな。 もぐら


きりを

1567はれずのみものぞかなしき、秋ぎりは心のうちにたつにやあるらむ。

朝は霧、夕べは時雨に暮れ行きて、日足短き年の暮かな。 もぐら
霧閉ざす海原よりは、昔往にし人の呻かふ声のみ聴こゆ。 もぐら


秋の暮

1568あきはてて、いまはとかなしあさぢはら、人のこころににたるものかな。

霜閉ざすほどの途にはあらねども、来ぬ人ばかり待ちて詮なし。 もぐら
行方さへえ知らずのまま、旅なり、と言ひてし人の宿荒れにけり。 もぐら




1569外山ふくあらしのかぜのおときけば、まだきに冬のおくぞしらるる。

きのふまでありし秋をし悼むごとくして、今朝しぐれは降りこめにけり。 もぐら
深き霧の奥にぞ冬はあり、といふ人と歩みき、コベントガーデン。 もぐら


1570見わたせば、まきのすみやくけをぬるみ、おほはら山の雪のむらぎえ。

此処もまた開発さるるなり、と知るシベリア原野の雪のむら消え。 もぐら
ここかしこなほ消えやらぬ白雪の残るは、春も遠しとぞ思ふ。 もぐら


1571さびしさにけぶりをだにもたたじとて、柴をりくぶる冬のやまざと。

冬なれば、糧、蓄へも無かりけり。粥一杯の嵯峨の山里。 もぐら
柴さへも雪の下とぞなりぬれば、炊ぎもならぬ冬の山里。 もぐら


1572かぞふれば、年ののこりもなかりけり、老いぬるばかりかなしきはなし。

つれづれの..

1573つれづれとながめくらせば、冬の日も春のいくかにおとらざりけり。

しばらくの温き日溜まりに背を丸めゐたるを、小春と世の人言ふなり。 もぐら
ゆゑもなく買ふを忘れし弁当の縁遠くして、春は遠かり。 もぐら



庭の雪

1574待つ人のいまもきたらばいかがせむ、ふままくをしき庭の雪かな。

雪踏みて来るもののあり。降らば来じ、と言ひてし人はありと思ふに。 もぐら
きのふまでありにし雪と思ひしに、来ぬ人ゆゑに消え果てにけり。 もぐら




1575さもあらばあれ、雲ゐながらも山のはに、いでぬる夜はの月とだに見ば。

訪ふは月ばかりにて、秋の夜は待ちてかひなき人をしぞ待つ。 もぐら
月待つをしらぬかほにて、蛍火の儚きままに燃えゐたるかな。 もぐら


1576くろかみのみだれもしらずうちふせば、まづかきやりし人ぞ戀しき。

文やらむすべさへ絶えて、浅茅生の露にしどけき今朝の袖かな。 もぐら
書きやらむすべさへなくて、くろ髪の朝露ならで濡れしままなり。 もぐら


1577涙川おなじ身よりはながるれど、戀をばけたぬ物にぞありける。

消つべきの身ゆゑに今朝は涙川、流れで恋ぞまさりけるかな。 もぐら
消えむとてえ消えぬ身をし儚し、と言ひてきのふへ帰りたきなり。 もぐら


1578たらちねのいさめしものを、つくづくとながむるをだにしる人もなし。

来し方は来し方ゆゑに、今更にさらじなどとは願ふすべなし。 もぐら
儚かりし親ゆゑ悲しきうつし世に、子の儚きぞまして悲しき。 もぐら


親のこころよからずおもひけるころ..

1579いにしへや、物おもふ人をもどきけむ、むくいばかりのここちこそすれ。

親たらずとも悲しきは子がゆゑ、と儚きままのうつし世なりけり。 もぐら
親ごころありやは知らず、子ごころのましてありやはえ知らずなりけり。 もぐら



和泉式部歌集 清水文雄校訂
岩波文庫 30-017-2 1976年6月30日 第12刷 岩波書店


 [299]
投稿者:[ もぐら ]  投稿日:[ 2008年10月04日(土) 15時35分50秒 ]


宸翰本和泉式部集  110



1550春かすみたてやおそき、とやま川のいはまをくぐるおときこゆなり。

白雪に埋みし峰より流れ落つる、岩清水にこそ春は知らるれ。 もぐら
春霞何処の方より来たりしか知らねど、来むべき人隠すなり。 もぐら


1551はるの野は雪のみつむ、と見しかども、おひいづるものは若菜なりけり。

けふよりは若菜摘まむと思ひしに、なほも降り積む春の淡雪。 もぐら
淡雪を分けて出でたる若草に、老いまた命を延ぶるが如し。 もぐら


1552秋までのいのちもしらず、春の野に萩のふるねをやくとやくかな。

きのふ咲きし萩もあはれを知りにしか、けふの嵐に散り果てにけり。 もぐら
ありし萩の花散り果ててけふはしらず、いづれの浄土に明日また咲くべき。 もぐら


1553春はただわがやどにのみ梅さかば、かれにし人も見にときなまし。

去年枯れず、今年咲きける白梅を見せたき人の、二三人あり。 もぐら
白梅に紅梅咲きて添ひゐれど、宿の花には添ふ人も無し。 もぐら


1554かぜだあにもふくはらはずはにはざくら、ちるとも春のほどを見てまし。

咲きたらば来むと言ひしが来ぬままに、やがては夏の風ぞ吹くめる。 もぐら
春は憂し、夏はつらし、と言ひし人の来ぬ間に秋の風ぞ吹き来る。 もぐら


1555のどかなる時こそなけれ、花おもふこころのうちにかぜはふかねど。

花散らす風恨みつつ、知らぬ間に秋の嵐となりにけるかな。 もぐら
きのふより吹き来し風は、けふ西の方へと憂き身を流すなりけり。 もぐら





1556夏のよは、ともしのしかのねをだにも、あはせぬほどにあけぞしにける。

けふよりは夏ぞ、と山の宿なれば水色の霧入り来たりけり。 もぐら
もの思ひをし果てぬほどに明けし夜の名残の浅霧、入りきたりけり。 もぐら


1557ながめには袖さへぬれぬ五月雨に、おりたつたごのもすそならねど。

簑笠に沁み入る五月雨水重み、田鶴身軽きを羨みにけり。 もぐら
重き簑を背負ひてけふは五十番札所や、明日は文月と言ふ。 もぐら


四月一日

1558さくら色にそめしたもとをぬぎかへて、山ほととぎす、けふよりぞまつ。

花も嘘、人なほ嘘、と言はむとて、四月一日ほととぎす鳴く。 もぐら
朝霧の立ちこめにけるベルギーの野にゐて、我も秋を待ちけり。 もぐら



和泉式部歌集 清水文雄校訂
岩波文庫 30-017-2 1976年6月30日 第12刷 岩波書店


 [298]
投稿者:[ もぐら ]  投稿日:[ 2008年09月17日(水) 19時07分52秒 ]


和泉式部続集  109


三日、人きたり、とききて、..

1546たねをとるものにもがなや、わすれぐさ生ひなばかかるあともみえじを。

忘れ草生ひて枯れにし跡なれば、春は来るとも草木は萌えじ。 もぐら
浮き世には、忘れ草のみはびこりて、また天災の来るべきなり。 もぐら


1547とをつらにたつるなりけり。今はさは心くらべに我もなりなむ。

比べてもかひなきものを、憂き世ゆゑ富むを得ざりし我が身なるかな。 もぐら
知らじ、とはしなしてけふもゐるものを、なほもあはれと思ふ人かな。 もぐら


1548これにこそなぐさまれけれ、おもかげにみゆるにはにぬ..

面影の留まりゐたるうつし世に、ありける人のなほあるごとく。 もぐら
きのふまでゐし面影のけふはなく、ただこがらしの吹きすさぶなり。 もぐら


1549ありはてぬいのちまつまの程ばかり、いとかく物をおもはずもがな。

人ゆゑに嘆き嘆きの多かるを、人の身ゆゑと思ひけるかな。 もぐら
きのふけふもの思ひのみ重なりて、やがては腹も膨るる如し。 もぐら


和泉式部歌集 清水文雄校訂
岩波文庫 30-017-2 1976年6月30日 第12刷 岩波書店


 [297]
投稿者:[ もぐら ]  投稿日:[ 2008年09月17日(水) 08時06分18秒 ]


和泉式部続集  108


三日夜の夢に、いとちかき所になむきたる、とみても、さめて、..

1534よのなかもはるけからじな、かくながらかよふもちかき命ながらは。

幾許と数ふるほどの命なれば、きのふの月さへ惜しくありけり。 もぐら
けふは眠り明日はし知らぬ身がゆゑに、うつつも夢も分かずありけり。 もぐら


1535年のうちにまたさくなし、ときくのはな、物おもふときはおとらざりけり。

白菊も黄菊も今朝は枯れ果てて、こころにさへも凩の吹く。 もぐら
知らぬ間に凩の頃となりにけり、黄菊白菊知りゐらめども。 もぐら


1536わくらばに、とふことのはも山風の吹くおとをのみきかむ、と思ひし。

ことの葉はわくらばの如く散り去りて、濡れしがままの心なりけり。 もぐら
きのふゐし心わくらばの如くして、散りせばけふは焚火に焼かなむ。 もぐら


1537からくして今日呉竹の夜もすがら、ねて何事を思ひあかさむ。

きのふ言ひし言の葉のみの浮かびきて、夜といふものはい寝がてにあり。 もぐら
寝て覚めてさても憂き世は変らず、と悟りけるこそめでたかりけれ。 もぐら


1538みごもりのかみなづきぞ、とおもはずは、木綿かけつべき心地こそすれ。

すべも無きことのみくだくだ思ひつつ、い寝れば腹は膨れたりけり。 もぐら
浮き世とは斯くの如くと思ふにも、破れ果てにし木綿衣はも。 もぐら


1539日をへつつ、我なに事もおもはまし、風のまへなるこのはなりせば。

きのふ散りけふはさまよふ枯れ葉ゆゑ、明日はいづこの川に流れむ。 もぐら
枯れ葉ひとつ飛び行く果ての西の海、明日はし何処の波に濡るらむ。 もぐら


1540ながむるにつけて心のなぐさむは、都の人のかたみなりけり。

往にし人の形見と言へば、ただひとつ心に浮かぶ面影ばかり。 もぐら
面影を残して往にし人ゆゑに、咲く花さへも憎くありけり。 もぐら


1541世とともにながるる水のしたにまた、すむにほどりのありける物を。

人の身の翔び立ち兼ねつと思ふにも、水鳥浅ましくぞありける。 もぐら
現世にあれば、せめては水鳥の如くに浮きゐて、なほ翔び立たむ。 もぐら


1542あられふるかひやなからん、神山のまさきのかづらくる人もなし。

かづら橋誰のかけしか知らねども、絶えなば人恋ふ道も絶えなむ。 もぐら
逢ふ由もなければ彼方へ渡らむ、とすれど絶えぬるかづら橋かな。 もぐら


1543あはれとも思へば、やがてまだらづくたけのよにこそ、すまざらんはや。

思ひのみ残りて儚き憂き世ゆゑ、けふの竹また枯れむとすらむ。 もぐら
竹伐りて流れに沈まず浮き行くを、あはれこの世と思ひけるかな。 もぐら


1544てすさびやしけむ、とおもふに、いとどしく思ひのはひはゐられざりけり。

吹かば散る儚き灰と思ふにも、同じと思ひし我がこころかな。 もぐら
晴れむとはすれども晴れぬ秋の空めきたる人の、心憂きかな。 もぐら


1545人も又かくやいぶきのさしも草、とおもふ思ひの身はこがしけり。

今様の煙も立たず熱くなき艾に、こころは癒えずありけり。 もぐら
流し目の熱きに我が背のさしもぐさ、枯れむとすれどなほ燃えにけり。 もぐら


和泉式部歌集 清水文雄校訂
岩波文庫 30-017-2 1976年6月30日 第12刷 岩波書店

 [296]
投稿者:[ もぐら ]  投稿日:[ 2008年09月09日(火) 11時17分25秒 ]


和泉式部続集  107


三日、月のいとおもしろきを..

1524月かげをうくもかくすか、みてだにもなぐさめがたき夜はの心を。

さだめ難き人の世ゆゑに、月さへもきのふに変る姿するらむ。 もぐら
現し身にあらねば嘆きも無かるべし、そねましかりける月の人かな。 もぐら


1525とふがごと、とふ人もあらじ、物ゆゑにいくたびあとを我尋ぬらん。

問へば、ただ訪ひたりけり、と言ふ人の浅きこころに時雨するなり。 もぐら
知る人の少なく知らぬ人多きこころのひまに、時雨するなり。 もぐら


1526にしへゆく雲にのりなん、とおもふみの心ばかりはきたへゆくかな。

ひたすらに西へと吹かぬ現世の風すさまじく、こころ侘びけり。 もぐら
ありし折りの姿のままにて乗りたまふらむ白雲の、西へ翔び行く。 もぐら


1527玉だれのみすならなくに、我が袖のいとどしくのみぬれ増さるかな。

御簾越しに見しと思ひし影やはた、きのふの夢の紛れとぞ思ふ。 もぐら
きのふまで濡れゐし空と思ふにも、けふ秋そらのむげにさやけし。 もぐら


1528いくべくもおもほえぬかな、わかれにし人の心ぞいのちなりける。

こころのみ残し給ひて別れにし人ゆゑ、今朝も夢に見にけり。 もぐら
別れてし人今いづれの空ならむ。秋空けふもさやけかりけり。 もぐら


1529おなじ野におふともしらじ、むらさきの色にも出でぬ草のみゆれば。

生ひ繁る草の紛れに、むらさきのちさきを見出でしふる里の宿。 もぐら
ゐし、とおもふむらさき草のけふ見ずて、いづこのそらの煙かと思ふ。 もぐら


1530人しれぬわが心葉にあらねども、かきあつめても物をこそ思へ。

散るがままにありにしことの葉をあつめ、けふ赤き火に焼かむ、とぞ思ふ。 もぐら
心より散りて往にけることの葉も、今は時雨に朽ちや果てなむ。 もぐら


1531しもつけのはなとみるこそかひなけれ、人のとふべきみかはと思へば。

しもつけも武蔵のくにも、小金井とあらば訪ふべき花もあるべし。 もぐら
咲きし、とは知らぬがままに散り果てし、人棲む里の木瓜の花かな。 もぐら


1532ながれ木のうへもかくれずなりぬるを、あなあさましのみづの心や。

誰埋みし、いつ埋みしかも知らぬまま、朽ち果てぬべき我が身なりけり。 もぐら
あはれとは思はずなれど、世の塵に埋もれ行くべき我が身なりけり。 もぐら


1533うちふさむことはものうしなどせまし、夜とぶ雁のおとせざりせば。

我が憂し、と思ふが如くに雁や思ふ、今宵は羽音もせざりけるかな。 もぐら
遠き空へ帰るすべなき雁一羽、刈田の畦にけふ立ち尽くす。 もぐら


和泉式部歌集 清水文雄校訂
岩波文庫 30-017-2 1976年6月30日 第12刷 岩波書店


 [295]
投稿者:[ もぐら ]  投稿日:[ 2008年09月02日(火) 15時24分59秒 ]


和泉式部続集  106


その夜の夢に、..

1512さめてこそみるべかりけれ、うつつにもあとはかもなき夢としりせば。

夢ゆゑに今宵再び見しならむ、儚きうつつにあらぬものゆゑ。 もぐら
うつつにはえならぬ恋と知りたれど、夢にだに見ぬことぞ悲しき。 もぐら


1513こがらしの風のたよりにつけつつも、とふことの葉はありやとおもはん。

いづかたゆ起こりし風かはしらねども、ことの葉のみの吹き寄するなり。 もぐら
きのふまでゐし風なくて、されどけふ秋立つなり、といふぞ悲しき。 もぐら


1514しぬるにも増りてものをうし、とのみおもふ我が身に、かへまし物を。

もの侘びに心の朽ち行くごとくして、朝も夕べも目覚めずありけり。 もぐら
ありしこと、思ひしことなべて朽ちゆくがごとくの心地のきのふけふかな。 もぐら


1515はつ霜もおきにけるまでおきぬかな、物うかるべきものならなくに。

恋ひしとふこころなければ、冷たくはあらぬ霜さへ今朝は寒かり。 もぐら
憂しがゆゑに霜置く袖にあらねども、人ゆゑけふの秋は寒かり。 もぐら


1516ものをのみおもひのいへをいでて、ふる一味の雨にぬれやしなまし。

けふよりは時雨そめし、と知れる道なれど、明日はし雪ぞ降るらむ。 もぐら
倦みにける世にありければ、いづかたに時雨するとも濡るるままなり。 もぐら


1517さならねどねられぬ物を、いとどしくつきおどろかす鐘のおとかな。

鐘の音も濡るるがごときの長雨がゆゑに来じ、とふ人の憎しや。 もぐら
遠寺より鐘ひとつありて、京四月くれなゐ色に暮れにけるかな。 もぐら


1518露のおきし木々のこのはをふくよりは、よにも嵐の身をさそはなむ。

けふよりはうつし身ならじ、と思ふゆゑに、鬼の顔して吹くあらしかな。 もぐら
知らぬ間に嵐往にけむ、和田の原潮路たゆたふ春にてありけり。 もぐら


1519むばたまの夜をばいかにあかせとか、ながむる月のまだきいでぬる。

けふの月をきのふのことに思ひなして、なほ来ぬ人を立ち待ちゐたり。 もぐら
あはれあはれきのふのあはれを思ひつつ、なほ来ぬ人を立ち待ちの月。 もぐら


1520よりぬらんわがよはしらで、ひとたびに過ぐる月日ぞあはれなりける。

人がことと思ひし月日も、我がことと思へば短きものとかは知る。 もぐら
この世とは何とも知らで、過ぎし日々の数の多きが悲しかりけり。 もぐら


1521あきはつるをりも小萩ぞしられける、うへしたばともなくなりぬれば。

柔はだを知らぬがままに枯れにしは、露さへ知らぬ小萩なりけり。 もぐら
ゆゑもしらず小萩がうらをも吹きかへす風も淋しき、宮城野の秋。 もぐら


1522もみぢ葉もましろに霜のおける朝は、こしのしらねぞ思ひやらるる。

大江山、行くもかへるももみぢ葉に埋みて、道さへ無かりけるかな。 もぐら
与謝の海に浪立ち騒ぎ、ふるさとはけふより冬をまとひぬるかな。 もぐら


1523しぐるともよに白雲をへだつれば、ぬるる袖をもえやはみせける。

知らぬ間に時雨し初めし宵なれば、袖をし絞る由無かりけり。 もぐら
みなとよりみなとへと漕ぐ舟人の、あはれぞまさる天の橋立。 もぐら



和泉式部歌集 清水文雄校訂
岩波文庫 30-017-2 1976年6月30日 第12刷 岩波書店


 [294]
投稿者:[ もぐら ]  投稿日:[ 2008年09月01日(月) 21時11分19秒 ]


和泉式部続集  105


四日、例の所に..

1500我が宿は、すがはら野辺となりにけり、いかにふしみて人のゆくらん。

ゐし宿は蓬ばかりとなりにけり、人思ひしゐし春ぞ恋しき。 もぐら
いづことも知らぬ宿にしゐし人を通ひたりける二とせの昔。 もぐら


1501よそにてもおなじ心に有明の月みば、そらぞかきくもらまし。

ふる身ゆゑいづれはいづこに暮れむとて、やどにもけふは時雨するなり。 もぐら
ゐし宿の有明の月如何ならむ、独りの宿にも秋の風吹く。 もぐら


1502ねをだにも今はなくべきかたもなし、まぎれし蟲の声絶えぬれば。

泣く由も知らずなりたる秋なれど、人ゆゑの涙なほ出づるなり。 もぐら
虫さへもえ鳴くをえざるの秋深み、我はし如何なるゆゑもて泣かなむ。 もぐら


1503おちとまるときはしりにしときぞとて、けさは涙のいふかひもなし。

涙なり、と思へばかひもあるものを、露なり、袖を濡らすばかりなり。 もぐら
来ぬ人はまして見ることなかるべし、濡れたる袖こそかひなかりけれ。 もぐら


1504これにつけかれによそへてまつ程は、誰をたれともわかれざりけり。

待ち待ちて、誰待ちゐしか忘れしが如くの宵に、有明の月。 もぐら
逢ふとさへ言はざりけるに待ちゐし、と恨むが如き月残りけり。 もぐら


1505いかにとてなほなげかるる。忘れぬ、といふ人かずにあらぬ身なれば。

あはれとはいふことなくて、ひたすらに忘れしのみと言ふ人ありけり。 もぐら
人の数に入らぬ身ゆゑに人を恋ふ。をみなが身とは悲しかりけり。 もぐら


1506きたりとぞよそにきかまし、身にちかくおなじ心のつまといふとも。

同じこころならぬが二人、妻と言ひ夫と言ふこそかなしかりけれ。 もぐら
知り初めしころに咲きゐしさくら花、樹は変れども、春ぞ嬉しき。 もぐら


1507したはれて心にかなふ身なりせば、今日またあきに別れましやは。

きのふまで秋立たなむを知らでありしことをし、今は悔いてゐるなり。 もぐら
したひゐし人が影をば見ずなりて、けふ山里に秋立ちにけり。 もぐら


1508いまはとてたつきりさへぞあはれなる、ありしあしたの空のにたれば。

こころさへ昔のままにあらぬものを、人棲む里の面影もなし。 もぐら
東峯に日の指し出づる頃となれど、なほ奥暗き空の雲かな。 もぐら


1509かはしてしころもはかへじ、むすびてし露けげなり、と人はみるとも。

たのみしの宵明けければ、秋ゆゑにあらぬ露さへ置きまさるなり。 もぐら
けさ置きし露は干るとも、待つ宵の来むと思ふが悲しかりけり。 もぐら


1510今日は猶ひまこそなけれ、かきくもる時雨ごこちはいつもせしかど。

時雨さへ嬉しと思ふ、山さとの独りすまひは淋しかりけり。 もぐら
時雨してきのふは昔となり行きぬ、来む人さへも来ぬ世なりせば。 もぐら


1511身はゆけど、名をばここにしとどむれば、やりどぐちこそとどめられけれ。

往し人の名さへ忘れて、秋の風の吹くままなりける彼岸花かな。 もぐら
共にゐし世のことなべて忘れはて、雲の彼方の月仰ぐなり。 もぐら



和泉式部歌集 清水文雄校訂
岩波文庫 30-017-2 1976年6月30日 第12刷 岩波書店


 [293]
投稿者:[ もぐら ]  投稿日:[ 2008年08月15日(金) 20時29分05秒 ]


和泉式部続集 104



二十四日、..

1490つねならば、よそにきかまし、風の音を身にしむ物と思ひけるかな。

秋風のころには、世の常ならずとも、人の心は揺らぐなりけり。 もぐら
秋立つ、といへども風は知らずして、人多くゐる街にてありけり。 もぐら


1491あけくれにすぎゆく秋もいつまで、と聞ゆる蟲のねにぞ啼きぬる。

夕べ鳴きてゐし虫らしきの骸残る、山里淋しく時雨するなり。 もぐら
汗出づるゆゑを暦の所為にせで、なほ風立たぬ立秋の宵。 もぐら


1492夕日さすかげに山とはみゆれども、いらぬほだしになれるなるらん。

人ゐし、と思ひし峯にも日は昏れて、いづれが先か、と思ひぬるかな。 もぐら
うつし世のほだしほだしは多けれど、なほ西峯に陽は墜つるなり。 もぐら


1493いかなればおなじ色にておつれども、涙はめにもとまらざるらん。

恋ひの色に染まりし頬の色なれど、袖はし露の色に濡るらむ。 もぐら
色かへて嘆きゐたるはきのふにて、けふはし水の垢となりけり。 もぐら


1494人づてにききこしやまの、なにしおはば忘れゆくともおもはましやは。

忘れじ、と通ひし道も今は荒れ、行方も定かにあらぬなりけり。 もぐら
忘れむ、の心無けれど、忘らるることのみ疾き浮き世なりけり。 もぐら


1495白露のうちおきがたきことのはは、かはらん色のをしきなるべし。

変らじ、と契りし色も今は萎えて、只白霜の光るのみなり。 もぐら
花の色の変るも知らで、常ならむ、などと思ひしあはれなりけり。 もぐら


1496ありはてぬわが身とならば、忘れじ、といひしほどへぬ我が身ともがな。

いつしかと知らぬ身ゆゑに、忘れじ、の心も何時までなりや知らずも。 もぐら
忘れむとせしことけふは忘れずて、忘れじのこと忘れけるかな。 もぐら


1497物おもへば、しづ心なきよの中に、のどかにもふる雨のうちかな。

ひととせの塵をも芥も流すらしき時雨に、京は降り込みにけり。 もぐら
降るべくの雨もよなれど、しぐれずて、こがらしのみぞ吹きまさりける。 もぐら


1498いつまでかけぶりとならで、風吹けばただよふ雲をよそにながめん。

化野の煙も見えぬ時雨どき、み霊はいづこならむか、と思ふ。 もぐら
きのふよりけふへと渡る天がみ舟、棹さす水も流れざらめやも。 もぐら


1499とぶかとてみどりのかみにひまもなく、かきつらねたる雁がねをきく。

常ならぬ恋ひせしなり、と知るが如く、雁の二三の乱れ落つるあり。 もぐら
乱れにし髪なりけり、と雁がねの翔び去りにける朝にしぞ思ふ。 もぐら




和泉式部歌集 清水文雄校訂
岩波文庫 30-017-2 1976年6月30日 第12刷 岩波書店



 [292]
投稿者:[ もぐら ]  投稿日:[ 2008年08月10日(日) 15時28分49秒 ]


和泉式部続集  103



三月ばかりに、..

1477けさはしも嘆きもすらん、いたづらに春のよ一夜夢をだにみで。

見がてなりし夢をし見たる春の夜は、これはうつつとわかずありけり。 もぐら
儚かりし夢なほけふも思ひゐる、花影淡き春の昏れがた。 もぐら


1478くれがたにをちの山辺はなりにけり、いづくばかりにこまとどむらん。

来じと言ひし人や何処に宿るらむ、茜初めける秋の暮れがた。 もぐら
東山に紫の雲立ちぬれど、けふなほあらむか思ひ儚し。 もぐら


1479やどらでもこよひの月はみるべきを、曇るばかりに袖のぬるれば。

月見む、と言ひて雨ゆゑ来ぬ人に、我が袖さへも濡れにけるかな。 もぐら
時雨ゆゑ濡るるはむべと思へども、袖の濡れゐるゆゑは知らずも。 もぐら


1480おもひしる事ありがほに、月影の曇るけしきのただならぬかな。

人来むと思ひしときに来しものは、宵より凄き時雨のみなり。 もぐら
ゆゑもなく雲に隠れる月は無し、憂きことの無き人の世も無し。 もぐら


1481雨もよにさはらじ、とおもふ人により、我さへあやなながめつるかな。

逢ふことのあらじと思ひし人なれば、逢ひしも俄かの雨ゆゑなりけり。 もぐら
雨ゆゑに月見む人は来じと言へど、なにか待たるる長月の宵。 もぐら


1482きのふてひけふひくらして、いつのまにこてふににたるつきをみるかな。

月見む、とひたすら待ちゐし幼子のころの心に、戻りぬるかな。 もぐら
昔より変らぬごとく月はあれど、うつしみ変らぬすべもなかりき。 もぐら


1483をりからは、おとらぬ袖のつゆけさを、きくのうへとや人のみるらん。

思ふことありて思ふこと重なるを、人の世ゆゑの憂さと言ふらむ。 もぐら
みづからの憂さをも知らで、憂し憂しと人言ふことのみ聞きゐたるかな。 もぐら


1484いとどしくあさねの髪はみだるれど、つげのをぐしはささまうきかな。

乱れにし髪がゆゑをし知るならむ、枕はひそと倒れけるかな。 もぐら
知らぬ間に明けにし朝の露けきに、なほも乱るる人が髪かな。 もぐら


1485おもふ人大津よりとぞきくからに、あやしかりける袖のぬれぬる。

逢ふ坂を濡らせし時雨のありつるに、袖乾きたる人ぞあやしき。 もぐら
凩にまどはぬ袖もあるめれど、時雨に濡れぬ逢坂は無し。 もぐら


1486わすらるるときぞ、ともなく、うしとおもふ身をこそ人の形見にはせぬ。

なにごとも憂し憂し、と言ひてありし身を、忘れじなどと言ふ人やある。 もぐら
定めゆゑにきのふはけふとなりぬべし。憂き身を明日の形見にやせむ。 もぐら


1487今日の日をくらすばかりは妹がり、とゆかぬばかりはくるしかりけり。

妹がりにゐしは憂しとぞ思ひゐし、旅立つ前の日々ぞかなしき。 もぐら
いづかたへ行くともかなしき妹がりを、思ふも儚き人の世の旅。 もぐら


1488まどろまであかしつるにも、いましこそ野辺にやどれる露もおくらめ。

秋立たば、野辺の露とや消えなまし、などと言ひてし昔恋ひしも。 もぐら
白白と明け行く見つつ、きのふとは、けふとは何、と思ひぬるかな。 もぐら


1489ささがにや、うはの空にはかきやらで、おもふ心のうちをみせばや。

物思ひばかりにうはの空なれば、ささがにとてもまよふなるべし。 もぐら
迷ひぬる心のうちを知りがてに、ささがにえ読まぬ絲を張るなり。 もぐら


和泉式部歌集 清水文雄校訂
岩波文庫 30-017-2 1976年6月30日 第12刷 岩波書店






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