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新歳時記十月 [70]
投稿者:[ もぐら ]  投稿日:[ 2008年10月04日(土) 15時33分54秒 ]


たのしさや、草の錦といふ言葉。 星野立子

何を言ふかは知らねども、きのふより錦纏ひし庭の楓葉。 もぐら
錦織の帯の如くに、秋の陽に華やぐ公園花壇なりけり。 もぐら


草紅葉、ここより熊野詣径。 稲畑汀子

熊野へと詣る道連れの如くして、王子にそれぞれ紅葉のゐたり。 もぐら
熊野まであと幾王子かを数へつつ、道々紅葉は色増しにけり。 もぐら


程ケ谷や、雑木紅葉も町の中。 今井つる女

番地尋ね尋ねあぐねて行く路地の果ては、紅葉の行き止りなり。 もぐら
行く先の番地は雑木林の中。狐狸が仕業、と立ち竦みけり。 もぐら


秋深き隣は、何をする人ぞ。 芭蕉

盗聴器仕掛けむとするほどに隣、なにして食らひゐるかを知らず。 もぐら
盗聴器仕掛けたれども、詮もなき愚痴のみ聞きたる秋の暮かな。 もぐら


拾ふ気になれば、団栗いくらでも。 柳本津也子

団栗を拾へど拾へど降り積みて、栗の実ならば、と思ふころかな。 もぐら
団栗を三つ四つ採りて、ままごとのランチとなして腹ふくれけり。 もぐら


大利根に渡し場多し、芦の花。 三苫落魄居

翡翠の何処此処そこは丸秘にて、日はなほ高し大利根河原。 もぐら
河原には芦刈り尽くされ、ひばりやらよしきりやらは何処行きけむ。 もぐら


野ざらしを心に、風のしむ身かな。 芭蕉

生きて帰る定めなど無き人の身がゆゑに、旅をしせむとするなり。 もぐら
酒掛けて殊勝に回向をせしかども、骨はし八十過ぎたる老婆。 もぐら


牛に物言うて出て行く夜寒かな。 蒼虻

家ひとらすべて留守にて、言づてを斑牛に言ふ里の秋かな。 もぐら
寄り合ひも面倒なれば、斑牛にもうと代理を頼みたくあり。 もぐら


密猟の小鳥を食はす、峠かな。 安田蚊杖

かすみ網にかかりし鳥共、つくね焼として食へども、酒はまづかり。 もぐら
これかすみ網か、と問へば、焼鳥や、そ知らぬ顔に話し逸らしけり。 もぐら


菊の香や、奈良には古き仏達。 芭蕉

我と共に紅葉恋ひゐる仏たちゐて、南都には秋風さやけし。 もぐら
鴟尾に紅き陽の落つるころ、我が身また仏と共に天平にゐる。 もぐら


黄菊白菊。其外の名は無くもがな。 嵐雪

しばらくは菊の名などは忘れゐむ、ロンドン行きの機中に在れば。 もぐら
華やかに黄菊白菊咲くを見て、我が園芸のつたなさを思ふ。 もぐら


柿ぬしや、梢は近き嵐山。 去来

主往にて幾百年か、柿の樹の梢はなほも紅くありけり。 もぐら
主のゐしころにくらべて、観光客の渦の中なる落柿舎なりけり。 もぐら


泣かせたる方が弟。木の実独楽。 泉浄宝

べえ独楽を回すを得ずして老いにけり、弟、それの巧者たれども。 もぐら
タイミング不確定性多くして、われべえ独楽を回すを得ざりき。 もぐら


からうじて山田実りぬ、落し水。 几董

来年に食ふべき米を、この夏の二ヶ月に得む、とふ人間の勝手。 もぐら
十分の米の蓄へ得ざれども、この秋の田に霜は置くなり。 もぐら


石山の石より白し、秋の風。 芭蕉

彼岸花の紅さへ霧にかすみつつ、色消えにけるみちのくの秋。 もぐら
濡れて濡れて濡れしゆゑさへ知らぬまま、嵯峨の秋野の途惑ひけり。 もぐら


頁繰る如く秋晴、今日も亦。 星野立子

子午線の東も西も秋晴にありける、ロンドン・グリニッヂかな。 もぐら
秋晴は前ページなれば、けふは霧深くて文字もえ読まずありけり。 もぐら



新歳時記9月 [69]
投稿者:[ もぐら ]  投稿日:[ 2008年08月31日(日) 15時08分41秒 ]


水澄みて水澄みて、人新たなり。 星野立子

九月より入社の社員のシャツ白く、我またリストラされしが如し。 もぐら
クールビズ嫌ふはそれにてよけれども、顔むさ苦し、某党党首。 もぐら


冷やかに掛かる、面会謝絶札。 一宮十鳩

隣室は暴力団の幹部らしく、面会謝絶、怖き客あり。 もぐら
拳銃を持ちたる見舞の客なべて、面会謝絶なり、と雖。 もぐら


木犀の香にあけたての障子かな。 高浜虚子

来る由も来ぬかも知れず、木犀のかほりのままの午後の潮なり。 もぐら
来む、と言ひて来ずとなりにし午後なれば、木犀の香はしきりなりけり。 もぐら


秋茄子や、やさしくなりし母かなし。 星野立子

嫁食ふか食はぬか知らず、秋茄子の色佳き、八百屋に求めたりけり。 もぐら
秋茄子を無性に喰ひたき気のするを、人より我がゆゑとしぞ思ふ。 もぐら


むきむきに赤とみどりの唐辛子。 芥川我鬼

赤は燥、緑は欝、と納得の極致なりける秋唐辛子。 もぐら
きのふまで燥にありける唐辛子、けさより白き霜に凍みけり。 もぐら


みちのくの山傾けて、蕎麦の花。 工藤吾亦紅

今年蕎麦の出来はよかりしなり、と笑ふでもなき農夫に皺は増えたり。 もぐら
蕎麦白く空また白く、おそ夏の信濃の山は人ゐぬ如し。 もぐら


ゆれ止みて、風ゆれ止みて吾亦紅。 稲畑汀子

秋立ちぬ、とは言ふものの風熱し。夾竹桃の花も赤かり。 もぐら
きのふまで夏なりけり、と言ふが如、夾竹桃の紅燃え残る。 もぐら


つきはなす貨車、コスモスのあたりまで。 深川正一郎

操車場今虚しくて、コスモスの花群のみぞなほも残れる。 もぐら
操車場、廃車となりし貨車錆びて、コスモスの花鮮やかなりけり。 もぐら


門ありて国分寺はなし、草の花。 梅室

住職は老い小坊主また老いにければ、境内草は茫茫となる。 もぐら
夏草は三日に明けず採らねば、と口を酸くして小坊主に言ふ。 もぐら


戻りくる波より低き、鰯舟。 堀本婦美

我が背漕ぐ小舟の磯の波紛れ、宵吹く風は憎しとぞ思ふ。 もぐら
乱獲がゆゑに今年は鰯高し。漁船は波間に低く帰り来。 もぐら


バス降りて徒歩で十分、曼珠沙華。 河村玲波

菩提寺に参るもこれで最後か、と思へば赤し、曼珠沙華かな。 もぐら
汗ばかり掻きて菩提寺の彼岸法会。これにて最後と思へば嬉し。 もぐら


死を告げて患家出づれば、良夜なる。 原田一郎

引導を渡し損ねて帰る道の、地蔵菩薩も恐ろしかりけり。 もぐら
大往生なりし、と子らは思ふらしく、泣きゐるは孫娘ばかりなり。 もぐら


名月を取ってくれろ、と泣く子かな。 一茶

名月も最近値上がりせしがゆゑに、貧しき父は宥むるのみなり。 もぐら
名月は採りても腹の足しにならず、ひもじさ増さる山の宿かな。 もぐら


名月や、畳の上に松の影。 其角

破れ障子の影、名月に映りゐる、三軒長屋独り住かな。 もぐら
松枯れて影なき空の満月は、明かし、といへど儚なかりけり。 もぐら


月天心、貧しき町を通りけり。 蕪村

晩飯を腹一杯に喰ひしかど、月見るころはまた減りにけり。 もぐら
腹減りて泣きゐし児らも寝入りしか、貧乏長屋に満月の空。 もぐら


邯鄲の声すぐそこに、闇深し。 下田閑声子

すだき初めし虫の声する路地裏の居酒屋にゐて、〆張一合。 もぐら
すべもなきもの思ひしつと思ひしが、虫また同じく思ひ鳴くなり。 もぐら


むざんやな、甲の下のきりぎりす。 芭蕉

かぶとひとつ残し往にける強者の精霊なるや、きりぎりす鳴く。 もぐら
甲既に朽ち果てぬれば、きりぎりすのみ無惨なりし兵を弔ふ。 もぐら


露の世は露の世ながら、さりながら。 一茶

秋ゆゑの露のみならで、うつし世がゆゑの露また繁くしありけり。 もぐら
我が露に子ろが露をば添へじ、とは思へど儚き憂き世なりけり。 もぐら


嫁ぐ娘に、老いたる母の夜なべかな。 中田隆子

サラファンを夜なべして縫ふ母のごとく、我が母必死にパートするなり。 もぐら
嫁に行く娘は母を如何に思ふ。その娘また、と晴れ着縫ひゐる。 もぐら



新歳時記八月 [68]
投稿者:[ もぐら ]  投稿日:[ 2008年07月29日(火) 11時31分20秒 ]



不知火は、わだつみ遠く燃ゆるもの。 森土秋

わだつみに虚しく消えし若者のみ魂に火もがも、夏の不知火。 もぐら
わだつみの骸となりて漂へる父が夢をし、けふも見にけり。 もぐら


芭蕉野分して、盥に雨を聞く夜かな。 芭蕉

夏の花のやうやく萎れ行くころになりて、跡逐ふ野分なりけり。 もぐら
盥鉢茶碗盃並べても、なほも足らざる野分なりけり。 もぐら


われ黙り、人はなしかく赤のまま。 星野立子

しばらくはきのふのことのみ言ひてゐむ、人に倦みゐて、夏の昏れがた。 もぐら
赤まんま咲くとも散るとも言はぬまま、悲しき夏の物語せむ。 もぐら


茗荷より咲きて、茗荷の花なりし。 稲畑汀子

花茗荷咲きゐる背戸の畑より、夏はしやうやく往ぬべくもあるか。 もぐら
茗荷取りて味噌汁に入れむとしては、味噌切らしけることに気付きつ。 もぐら


見られゐて、種出しにくき西瓜かな。 稲畑汀子

これは種無しの西瓜、と言はるれど、ひたかぶりつく勇気なかりき。 もぐら
種とふは西瓜の黒き縞の下、と。聞きて納得のことにてありけり。 もぐら


朝顔に、垣根さへなき住居かな。 太祇

朝顔を這はせて此処よりわが家、となせば釣瓶はお隣へ行く。 もぐら
垣根無き住宅とふは非現実、と言ふとも普通のマンションしかり。 もぐら


鳳仙花、路地を迷ひて同じべし。 稲畑汀子

鳳仙花、宿の庭にも咲くものを、隣の庭と比べむぞ憂き。 もぐら
せうも無き岩礁二つ。どうのかうの言ふより一つづつに分ければ。 もぐら


道のべの木槿は、馬に喰はれけり。 芭蕉

知らぬ間に何かを喰ひしならむ駒、手綱取る間もなくて往にけり。 もぐら
突然に奔り往にける駒求め、馬子は泣きつつ尻尾追ひけり。 もぐら


摂待へ寄らで、過ぎゆく狂女かな。 蕪村

この途は西へ到らむか、と聞きて白装束の女行きけり。 もぐら
みほとけの心を既に得しならむ、女はしづかに笑みて往にけり。 もぐら


見る人も、廻り灯篭に廻りけり。 其角

現世は結局廻り灯篭に過ぎず、と。我はし一回りしつ。 もぐら
逐ひて逐ひてなほも逐はるる面白さ。メリーゴーラウンド我も騎りけり。 もぐら


小さき墓、その世のさまを伏し拝む。 高浜虚子

六十年経てば、名を知る人もなし、童女、と言ふ字のかすれつつ見ゆ。 もぐら
かの童女如何なる病に往にてしか、知るすべもなき曼珠沙華かな。 もぐら

荒海や、佐渡に横たふ天の川。 芭蕉

新潟に呑みて佐渡へと渡る船なれば、天の川より吉乃川。 もぐら
酔ひ酔ひて舟漕ぎ出せば、佐渡が島酔ひて寝たりし天の川あり。 もぐら


新歳時記七月 [67]
投稿者:[ もぐら ]  投稿日:[ 2008年06月30日(月) 14時42分48秒 ]



島庁や、訴人もなくて花芭蕉。 日野草城

仕事なき島の役人、めでたくも免職となり連絡船にて去る。 もぐら
人殺し絶えて無ければ、警察官空欄のみの書類作りゐる。 もぐら
島住民、百人足らず、となりぬれば、殺人者ゐる確率、万に一。 もぐら
島さびに島さびければ、千人の村にゐるさへ恐ろしかりけり。 もぐら


向日葵を描き、お日様を描く子かな。 藤松遊子

向日葵、と問へばお日様。お日様、と問へば向日葵。天邪鬼の子。 もぐら
無邪気とは天邪鬼なり、と憎らしき我が砂利どもに悟りけるかな。 もぐら
言ひもせぬにお日様赤く描く子、既に常識掃き溜めなり、と思ひつ。 もぐら
見た通り描け、と言ひしかば、雨の日にお日様を描く我が子なりけり。 もぐら


夕顔に、水仕もすみて佇めり。 杉田久女

夕顔に主婦の苦労は判るまじ。米とぎ汁を捨てつつ思ふ。 もぐら
今夜何時かは知らねども、一応は夕餉の秋刀魚を焼きてをりけり。 もぐら
けふ見てしトラウマ知らぬかほをして、夕顔ひたすら白くありけり。 もぐら
殺さねば殺さるる、とし思ひゐる如きの、白き夕顔の花。 もぐら


香水の香ぞ、鉄壁をなせりける。 中村草田男

なんのかのと言ひて業界女らしき、香水の香にそれと知れけり。 もぐら
ミルヒーの言ふとほりなる色香修行、結局千秋に通じざりけり。 もぐら
久しぶりの甘き香りと思ひしかば、外出支度の我が妻なりけり。 もぐら
一瞬の流し目よりもものをいふ、なんとやらいふ五番の香水。 もぐら


しづかさや、岩にしみ入る蝉の声。 芭蕉

人の言ふことはし聞かぬ岩の如き人ゐて、満座静まり返れり。 もぐら
岩をどけて道路作ると言ふ役人、一般庶民の言ふこと聞かず。 もぐら
巌をも碎くと言ひてし人あはれ、けふ鳴く蝉が声にてとむらふ。 もぐら
けふはけふ、明日は明日ぞ、と思ひゐる人嗤ふごと巌立つなり。 もぐら


炎天に、蓼食ふ虫の機嫌かな。 一茶

今年、蓼は出来良し、と言ふ農夫ゐて、ならば、と茄子を分けて貰へり。 もぐら
菖蒲、今年思はぬ横根を延ばしけり。これまた隣へお裾分けなり。 もぐら
往にしか、と思ひし迷ひ猫の、けふふらりと戻る日差し強しも。 もぐら
すかんぽの穂の高き高き、炎天の無為楽しみし少年の頃。 もぐら


旅なれば、この炎天も歩くなり。 星野立子

雨タクシ、などと同じく炎天は、タクシタクシと呼ぶ人多かり。 もぐら
タクシーのやうやく来たれば、むっと暑し。あいにくクーラー故障せし、とふ。 もぐら
駅前のホテル取りてし幹事偉し。されども十歩ほどにて濡れたり。 もぐら
期待せし観光なべて流れければ、けふの信濃の雨は怨めし。 もぐら


象潟や、雨に西施が合歓の花。 芭蕉

酒田より北へ十里の象潟は、国境ゆゑの涙雨なり。 もぐら
女ゆゑの涙にあらで、雨ゆゑにけぶるがごときの合歓の花かな。 もぐら
きのふまでありけるなみだは、けふさらに濡れて西施がここちしにけり。 もぐら
合歓の花を濡らす五月雨憎くして、象潟夢もえ見ずありけり。 もぐら



新歳時記六月 [66]
投稿者:[ もぐら ]  投稿日:[ 2008年06月01日(日) 08時22分18秒 ]


山荘の月日、籐椅子にも月日。 稲畑汀子

ゐ給ひし人ゐしころのことごとの如くに朽ちし、庭の籐椅子。 もぐら
人寄らぬやうになりたる店の庭の、蔦絡みゐる椅子のいとしも。 もぐら


夏足袋の小はぜくひ入る、足白し。 武原はん女

夏痩せ、と人は言ふとも、くるぶしはメタボなるらし。足袋は入らず。 もぐら
きのふまで暑しと言ひゐしはつなつの、けふは朝より冷た雨なり。 もぐら


のしかかる如き暑さに、立ち向かふ。 星野立子

クーラーの工事をみづから為せしときの、工成りやうやく出でし涼風。 もぐら
二三年経ちてクーラー壊れ来るころに省エネ。買ひ換へ延ばさむ。 もぐら


旅に出て、父見し山河茂り合ひ。 星野立子

父は如何にこの中国の山河見て生きてしならむ、明日は西安。 もぐら
ひたすらに行軍しゐしならむ父が目に、この桃は如何に映りしや。 もぐら


谺して、山ほととぎすほしいまま。 杉田久女

初音して、谺は山よりかへり来て、我がこころにも谺するなり。 もぐら
初音ひとつあれども、谺のせぬ人のこころに入りて返り来ぬなり。 もぐら


たらちねの、蚊帳の吊手の低きまま。 中村汀女

我に乳を含ませたまふ母が胸に、憎き蚊ひとつ膨らみゐたり。 もぐら
母が乳のカップは如何に、と忘れしがままに、当人古希となりけり。 もぐら


おもしろうて、やがてかなしき鵜舟かな。 芭蕉

観光の目玉となりし鵜飼舟、止むるを得ざる船頭どのかな。 もぐら
なに事も鵜呑みにしてはならぬぞ、と言ふが如くに網を打ちけり。 もぐら


藻の花や、小舟よせたる門の前。 蕪村

蕪村どのを乗せたるゴンドラ、サンマルコ広場に着きたり。船頭はポーロ。 もぐら
黄金の国より帰りしマルコ見しは、サンマルコ広場の中のさざ波。 もぐら



新歳時記五月 [65]
投稿者:[ もぐら ]  投稿日:[ 2008年04月29日(火) 17時13分00秒 ]



麦飯もよし、稗飯も辞退せず。 高浜虚子

塩なくて旨きものならなべて喰はむこころあれども、さるは少し。 もぐら
麦の穂の出でそめけるを脇にみて、明日弁当は如何にとぞ思ふ。 もぐら


草笛の子や、吾をみて又吹ける。 星野立子

草笛を遠く遠くに吹き通すかなたへ、月は沈み行きけり。 もぐら
ひとのゐて、我が草笛の音は遠く、遠くなりゆく月の宵かな。 もぐら


うの花の絶間たたかん、闇の門。 去来

嵐山はいづこ、と迷ひし客人の、門を叩きし卯月闇かな。 もぐら
西山の闇こそ卯月はまさりけれ、わきて月見ぬ二十三夜ごろ。 もぐら


花いばら、故郷の路に似たるかな。 蕪村

さ迷ひて、此処もかしこもふるさととなりける憂き世は、旅の末かな。 もぐら
帰らむのこころを碎く、茨野の茨峠のふるさとの道。 もぐら


不二ひとつうづみ残して、わかばかな。 蕪村

富士蒼し青富士見たしと思ふにも、けふ五月雨の空は暗しも。 もぐら
花ぐもり花ぐもりして、富士が嶺のいづくと知らぬ弥生空かな。 もぐら


牡丹散てうちかさなりぬ、二三片。 蕪村

やがて牡丹儚くならむと思ふにも、みどりを散らす雨は憎しも。 もぐら
きのふまで咲きゐし牡丹と思へども、けふは悲しき紅衣なり。 もぐら



新歳時記四月 [64]
投稿者:[ もぐら ]  投稿日:[ 2008年03月31日(月) 15時43分11秒 ]



メモしつつ、早や四月よ、とひとりごと。 星野立子

年度ならで、暦年ごとの手帳ゆゑ、三月予定は立てづらくあり。 もぐら
メモメモと取り来しきのふの年月は、けふより虚しと思ふべきなり。 もぐら


此処からも大仏見ゆる、春の空。 星野立子

朝夕に大仏拝みてゐれば、われみ心近し、と思ほゆるかな。 もぐら
ゐたまひしころの大仏、けふもなほたふとかりける、鎌倉春夏。 もぐら


ふるさとは、遠くに浮かむ春の空。 今井つる女

きのふまでありてけふはし消えにける、まぼろしの如きふるさとの空。 もぐら
ふるさとは、春の霞の彼方なる峯より、遥か昔なりけり。 もぐら


野にでれば、人みなやさし桃の花。 高野素十

桃の花の輝く野に出で、きのふまで詰まらぬ空にありし、とぞ思ふ。 もぐら
けふの野はきのふと同じと思へども、桃にすももに人ぞ優しき。 もぐら


口ごたへすまじ、と思ふ木瓜の花。 星野立子

木瓜の花いと白ければ、これが女性専用車なりと知らずありけり。 もぐら
してかひの無かりし口ごたへのみを、し来たりけるかな、齢七十。 もぐら


春宵の今は今、又明日は明日。 星野立子

残り僅かなりける春の宵がゆゑに、明日はし明日の目覚めあるべし。 もぐら
目覚めなばいづれの世なるか知らねども、今宵は春の、春の宵なり。 もぐら


花の雲。鐘は上野か、浅草か。 芭蕉

八百八町には花の霞かかり、いづれの寺の鐘か知らざり。 もぐら
隅から隅までずいいと花の雲かかるお江戸は、春の口上。 もぐら


花の寺、末寺一念三千寺。 高浜虚子

花植ゑて本山よりも有名となりたる末寺、けふは春なり。 もぐら
二三千ほどの桜を植ゑ給ひける先住は、たふとかりけり。 もぐら


奈良七重七堂伽藍八重桜。 芭蕉

鹿なべてとろんとしたるまなこして奈良の春日野、名のとおりなり。 もぐら
四条九条、土地名はみやびゐたれども、春菜の花の西の京なり。 もぐら


何事ぞ、花見る人の長刀。 去来

花見宴、ごみは分別せよ、と言へど、散るはなびらはごみにはあらざり。 もぐら
酔っぱらひ、煙草も減りて、近頃は太平楽なる花見なりけり。 もぐら


菜の花や、月は東に日は西に。 蕪村

やうやうに日長き季節となりました。挨拶交す菜の花千里。 もぐら
菜の花を越えて菜の花をまた越えて、ふるさと、千里の向かふなりけり。 もぐら


古池や、蛙飛こむ水の音。 芭蕉

古池や、干され乾きて、去年の秋飛び込みにける蛙どのいづこ。 もぐら
いつまでも濁り水とてあらぬべし。飛び込む蛙よ、こころし給へ。 もぐら


痩蛙、まけるな。一茶是にあり。 一茶

負け蛙なれども先生面下げて、人教へゐしことのはづかし。 もぐら
負け犬を応援したし、の心なし。所詮は己と同じ身なれば。 もぐら

新歳時記3月 [63]
投稿者:[ もぐら ]  投稿日:[ 2008年02月19日(火) 16時53分23秒 ]



花ミモザ、住むその人は誰も知らず。 佐土井智津子

ゆかしとは思へどミモザ咲く庭には、如何なる美女のあるか知らずも。 もぐら
花の名の如し、と言へば、あらいやだ、あたしは散りたくないの、とのみ言ふ。 もぐら


よく見れば、なづな花咲く垣ねかな。 芭蕉

春を恋ひてやうやく野辺に出でにければ、いぬのふぐりも嬉しかりけり。 もぐら
たんぽぽに遅く来たりし春を知る。我が恋既に昔がたりなり。 もぐら


たんぽぽ、と小声で言ひてみて一人。 星野立子

ありふれてゐるけれど、またあたらしく言ってみたいと思ふから、春。 もぐら
私が好きな河原の土手の春、ちいさい一つのタンポポから来た。 もぐら


山路来て何やらゆかし、すみれ草。 芭蕉

たんぽぽといぬのふぐりを見出だして、春まで生きてありしを喜ぶ。 もぐら
我が母の摘み給ひてし蓬草、ちかごろえ見ずなりしを悲しむ。 もぐら


なほ奥に蕨の長けし、ひと所。 稲畑汀子

他人の森に無理矢理入る非法をし咎むるごとき、蕨の拳骨。 もぐら
ワシントン条約までには到らねど、蕨、たらのめ、人ゆゑ危ふし。 もぐら


春なれや、名もなき山の朝がすみ。 芭蕉

旅にゐてたったひとつの嬉しきは、朝もやの中に目覚めたること。 もぐら
越の国は春なほ遠し。穏やかなる朝とは言へど、曇り空なり。 もぐら


この寒さ、比良八荒と聞くときに。 稲畑汀子

比良はおろか、比叡、中山、甲山と、雪舞ひしきる春寒なりけり。 もぐら
未だ咲き揃はぬ梅に、淡雪の見えぬがほどに降り積りけり。 もぐら


落ざまに水こぼしけり、花椿。 芭蕉

きのふまで降りし春雨、憂し、と思ひしか花椿、はたりと落ちけり。 もぐら
椿落ちて、きのふまで見し恋ひあはれあはれ、とこころ去り難てなりけり。 もぐら


うごくとも見えで、畑うつ男かな。 去来

何里先、とは思はねど、里人の畑打つ歌の声聴こえけり。 もぐら
農夫うたふ声はすれども、その姿、あはき霞の彼方なりけり。 もぐら


春雨や、ゆるい下駄借す奈良の宿。 蕪村

京は知らず南都は春になりぬべし、淡雪さへも雨に変りつ。 もぐら
大仏を拝みて坂を三月堂、南都の春雨に鼻緒切れけり。 もぐら


雲雀より上にやすらふ、峠かな。 芭蕉

ちくちくと雲雀鳴きゐる峠より、田夫の歌ふ里へ下りつ。 もぐら
下界遥か、雲雀鳴くをし聴きゐつつ、弁当無しの朝にてありけり。 もぐら


信濃路は、雪間を彼岸参りかな。 也有

炭撒きし畑のみ融けし道の辺の、地蔵もやうやく頭見えけり。 もぐら
積るほど、融くるほどにもあらぬ雪のなほも降り来る越後早春。 もぐら


五女の家に、次女と駆け込む春の雷。 高浜虚子

次女の夫、五女の夫と仲悪し、などとふ噂をしつつ、春雷。 もぐら
長女より五女まで揃ひ長寿祝ひ呉るるは嬉し、背も延びにけり。 もぐら


春雷や、女主に女客。 星野立子

夫より妻胆座りたるがゆゑに、雷あれども、夕餉は絶えず。 もぐら
ひとしきり鳴りて去にける春雷に、長居の客も腰上げにけり。 もぐら


うまず女の、雛かしづくぞ哀れなる。 嵐雪

嫁に行かずあるらむ娘を、祝ふとも嘆くともなき、雛祭りかな。 もぐら
人を恋ひ初めにけるらし、娘今年、雛を祝ふを忘れゐるかな。 もぐら


草の戸も住み替る代ぞ、雛の家。 芭蕉

雛まつる戸口にのそりと旅僧の、喜捨乞ひきたる春の夕暮。 もぐら
家借りて呉るる人なほ現れず。やきもきしゐる雛の頃かな。 もぐら



新歳時記二月 [62]
投稿者:[ もぐら ]  投稿日:[ 2008年01月17日(木) 14時10分12秒 ]


まん丸に草青みけり、堂の前。 一茶

地蔵様もやうやうかうべを出だし給ふ、雪国浅き春となりけり。 もぐら
みちばたにゐたまふ地蔵のちゃんちゃんこ、なほ雪に埋む遅き春かな。 もぐら


鴬の身を逆に、はつねかな。 其角

初音聴かむとて逆立ちをしゐ給ふ宗匠、めでたき浅き春なり。 もぐら
去年まで谷渡りせし鶯は、吊り橋の下くぐり初めなり。 もぐら


梅白し、まことに白く新しく。 星野立子

往にし春のことども新たに思ひ出づる、周囲は白き梅ばかりなり。 もぐら
嫁ぎし子、梅の便りにこと寄せて、孕みしことをそれとなく言ふ。 もぐら


むめ一輪、一輪ほどのあたたかさ。 嵐雪

嫁女、けふは背戸の紅梅咲きました、などとふ老いの山家棲みなり。 もぐら
梅散るを春の盛りと喜びて、やがて桜の散るを悲しむ。 もぐら


炉辺の犬、耳を立てたる雪崩かな。 宮下翠舟

初雪の降るがやうやう静まりし、かと思ふころ雪崩の音す。 もぐら
隣谷例年雪崩の多ければ、今年もバスは途絶するべし。 もぐら


初午や、禰宜に化たる庄屋殿。 也有

住持居らぬ寺にも春は来るらしく、二三の梅咲き、茶会などす。 もぐら
ご内儀のつくり給ひし稲荷寿司、たらふく喰ひて初午となす。 もぐら


山寺の春や、仏に水仙花。 也有

み仏の長き眠りを覚ますごとく、ひとむら凛と咲きゐる水仙。 もぐら
当寺もやうやう水洗トイレ入り、水仙一層清げに咲きけり。 もぐら



新歳時記一月 [61]
投稿者:[ もぐら ]  投稿日:[ 2007年12月30日(日) 10時20分25秒 ]


声よきもたのもしげなり、厄払。 太祇

今までに溜まり溜まりしパソコンの類を捨てむ、と屑や呼びけり。 もぐら
捨てむとて面倒なれば、いつかまた使はむ、などと言ひ訳つくれり。 もぐら


侘助や、障子の内の話声。 高浜虚子

蕎麦すする音する障子のむかふには、声はせねども男女なるらし。 もぐら
知らぬ間に勘定書の回り来るむかふは、恩ある人どちなりけり。 もぐら


水仙の花の高さの、日影かな。 智月

猫の影の長く長くして、冬至きのふ。けふなほ晴天続きなりけり。 もぐら
猫の影の長く曵きゐる冬至には、耳の影はしきつねの如しも。 もぐら


水仙や、日は中空にかかりたる。 高浜虚子

一瞬の光の中に水仙の咲きゐる、町屋の暮れの頃かな。 もぐら
十分に満たざる時間の光さへ惜しみて、咲きゐる黄水仙かな。 もぐら


千両か、万両か、百両かも知れず。 星野立子

千両も万両もある我が庭に、百両の無きことをし惜しむも。 もぐら
千両に満たざる陋屋なれど、草は知らぬかほして万両、と言ふ。 もぐら


寒月や、枯木の中の竹三竿。 蕪村

月蒼く、枯れ竹林また凍てたるが如きの大寒、嵯峨野なりけり。 もぐら
どくろひとつ虚しき眼を剥き月を恨みゐる、とふ西の涯なる化野。 もぐら


スキー長し、改札口をとほるとき。 藤後左右

持ち込み料ごまかすすべもなきスキー。せめて掲げてバスに乗りてむ。 もぐら
貸しスキーばかりとなりたるきのふけふ、不可思議軍団バスに乗り来る。 もぐら


いざゆかん雪見に、ころぶ所まで。 芭蕉

雪見より雪見酒をし恋ひければ、ころぶは嫁御の役となりけり。 もぐら
戻り道は雪崩危険、となり果てて、温泉宿に雪篭りせり。 もぐら


是が、まあ、つひの栖か、雪五尺。 一茶

脱皮したき思ひ無きゆゑ、身の丈に合ひし住まひ、と悟りけるかな。 もぐら
雪二尺までは介護の車来めど、五尺のけふはゐざり用たす。 もぐら


いくたびも、雪の深さを尋ねけり。 正岡子規

外出を延ばし延ばせど、窓外の雪降り積もるばかりなりけり。 もぐら
草庵に降り積む雪の深ければ、肺病やみの咳また深し。 もぐら


降る雪や、明治は遠くなりにけり。 中村草田男

何時の間にか昭和の雪も遠くなりて、二二六の写真見るかな。 もぐら
敗戦の後に降りたる初雪を、こころすがし、と思ひけるかな。 もぐら


土蔵から筋違にさす初日かな。 一茶

やうやうに雪掘り抜きて、一階の居間にも初陽差し入りにけり。 もぐら
雪しんしん、土蔵を埋めて、我もまた息をひそめて寝酒しんしん。 もぐら


元日や、家に譲りの太刀佩かん。 去来

三世代前、大地主なりと聞けど、現在我は一坪も持たず。 もぐら
寵愛の末子なりける我が父に、一坪も分けぬ本家賢し。 もぐら


去年今年、貫く棒の如きもの。 高浜虚子

一年のごみ書類ども捨てて捨てて、貫く時を断たむ、とぞ思ふ。 もぐら
積りたる古書類ども捨てむとて、咳込みにける年の暮かな。 もぐら






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