短歌・俳句の相互作用掲示板

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新歳時記2月 [90]
投稿者:[ もぐら ]  投稿日:[ 2010年01月20日(水) 12時46分54秒 ]



庭掃除して、梅椿、実朝忌。 星野立子

この庭は、実朝どのの屋敷跡、とて道を行く若者恐ろし。 もぐら
用もなき観光客の我なれど、立子先生ゐし跡懐かし。 もぐら


小包の軽さよ、出でて来し若布。 星野立子

缶麦酒多く入りたるお歳暮は、配達人、我ともに辛かり。 もぐら
缶麦酒多くあれども、客ワインのみ飲みたればすべて残れり。 もぐら


犬ふぐり、星のまたたく如くなり。 高浜虚子

めぐり来しさやけき光を言祝ぎて、犬のふぐりは春にまたたく。 もぐら
風潔く、犬のふぐりのひそやかに咲きにし春に、また逢ひにけり。 もぐら


まん丸に草青みけり、堂の前。 一茶

我がやどの前の荒波しづもりて、越後の浜にも春は来にけり。 もぐら
軒端まで積みにし雪もあと少しばかりとなりて、越後春なり。 もぐら


鴬に、終日遠し畑の人。 蕪村

鶯の、恥らふごとくちち、と鳴く声同行に春峠越ゆ。 もぐら
背の畑を耕す人の遠く遠くなりゆき、本船出港したり。 もぐら


鴬の身を逆に、はつねかな。 其角

天辺は、山とも谷とも知らねども、ほのぼの白む一声なりけり。 もぐら
やうやくに喉慣らしをし済ませたる、その一声に春は来にけり。 もぐら


むめ一輪、一輪ほどのあたたかさ。 嵐雪

ひともとの水仙咲きつと見るほどに、山里なべて春は来にけり。 もぐら
梅一輪、また一輪と散り行きて、しばしの吹雪となりにけるかな。 もぐら


梅白し、まことに白く新しく。 星野立子

生きてなほ梅のかほりを聞き得し、と天の恵みをたたへけるかな。 もぐら
新しき世にしてなほも老梅に一輪紅あることぞ嬉しき。 もぐら


しののめに、小雨降出す焼野かな。 蕪村

野焼きせし跡の黒きに、早蕨の萌え出づるこそ嬉しかりけれ。 もぐら
やうやうに舟さしかかる都井岬、馬は見えねど春霞かな。 もぐら


さ、と過ぐる切戸の潮のさよりかな。 高浜年尾

きのふまでありける渦はいまいづこ。瀬戸内春のさかりなりけり。 もぐら
けふよりは舟来ず、といふ港しは、しづかに桜の散りかかるなり。 もぐら


濡れて来し雨をふるふや、猫の妻。 太祇

ご近所に猫の少なくなりしかば、絶滅危惧か、とにゃおにゃお鳴くなり。 もぐら
知らぬ間に雨降りだししを、恋猫の声の絶えしに気づきけるかな。 もぐら


関の戸の、火鉢ちひさき余寒かな。 蕪村

関さば、と言ひて囃して、高き魚をちびりちびりと舐めにけるかな。 もぐら
関さばはけふの肴に佳し、といふ。高き日本酒合ふにてしあるらし。 もぐら


川口に、小蒸気入るる雪濁り。 矢田挿雲

高速船、つ、と来て賑はふ桟橋に、やがては春の茜差すなり。 もぐら
最終船行きし後には、しづしづと離島は闇の中に沈めり。 もぐら


子供等に、まだかまくらの空昏れず。 川上玉秀

この冬は異常に少なき雪なれば、鎌倉行く、と子らを宥めつ。 もぐら
やうやうと降り積む雪に、かまくらの天井崩れ、子ら埋みて泣く。 もぐら


ヴァレンタインデーの会話として聞けば。 稲畑汀子

おばちゃんにチョコ貰ひしが、うれしくも悲しくもなきバレンタインかな。 もぐら
義理チョコを貰ふことなどなくなりて、せめてうれしき桃の花かな。 もぐら


立春の子を授かりし、予感かな。 藤原比呂子

春、と言へば猫のみならぬ女の身、内には潮の差して来るあり。 もぐら
春思ふ頃にしあれば、猫ならぬ人の女の身はしはづかし。 もぐら



新歳時記一月 [89]
投稿者:[ もぐら ]  投稿日:[ 2009年12月29日(火) 15時37分24秒 ]


年かくすやりてが、豆を奪ひけり。 几董

歯は欠けて、え喰はぬ豆をしこたまに抱へて、老女ほくそ笑むなり。 もぐら
一日に六たびも歯磨くこととなりしゆゑは、フルート吹き初めしより。 もぐら


先生も人のすすめや、厄おとし。 召波

新フルのおかげ様にて補習補習、師はなほせはしく走り給ふなり。 もぐら
教へたきことのなほなほ多くして、年の移るが怨めしかりけり。 もぐら


冬の梅、きのふやちりぬ石の上。 蕪村

もの蔭に残りし雪の消えやらず、春を告げむと白梅の咲く。 もぐら
なほも憂きことの積れる如くして、庭の石には雪残りたり。 もぐら


筆耕の机の塵や、日脚伸ぶ。 野崎方道

身すぎにはなほも足らねど、世がためには過ぎたるものぞ、と筆を執るなり。 もぐら
もの書きに升目とふものなくなりて、両手の指はなべて疲れつ。 もぐら


水仙の花の高さの、日影かな。 智月

日影なほ浅きを知りて低く咲く、水仙ばかりの春となりたり。 もぐら
日脚延びしこと知りたるがごとくして、水仙一際茎伸ばしたり。 もぐら


水仙の花のうしろの、蕾かな。 星野立子

傾かむこころはあれど、しろじろと冬空睨む水仙の花。 もぐら
なほも春を疑ふこころあるがごとく、水仙、蕾を傾けゐたり。 もぐら


千両か万両か、百両かも知れず。 星野立子

億万両積みても見たき、初春の朱の色こそ嬉しかりけれ。 もぐら
賑やかに大なるものより、淋しげに小なるものが値高し、とふ。 もぐら


雪晴や、障子の外の与謝の海。 竹内三桂

ゐし人のころと変らぬ与謝のうみ、橋立越しに初日登る見つ。 もぐら
正月に渡りて見たき橋立は、せめて呑みつつテレビにて見む。 もぐら


いざゆかん、雪見にころぶ所まで。 芭蕉

転ぶほどの雪にはあらねど、寒梅の四合瓶ゆゑ転ぶなりけり。 もぐら
色気には迷はずなれど、寒気にはいづれの飲み屋、と迷ふなりけり。 もぐら


木屋町の旅人とはん、雪の朝。 蕪村

初上りなり、とふ客人案内して、三条二条と雪に埋みけり。 もぐら
知らずけふは大雪なるを押して、京の三条四条と散歩しにけり。 もぐら


是がまあつひの栖か、雪五尺。 一茶

きのふまでありにし夢を、この雪の何処かに埋めて冬籠りかな。 もぐら
憂き身ひとつ年を越すとも、憂きことの年を越えゆくことぞ悲しき。 もぐら


いくたびも、雪の深さを尋ねけり。 正岡子規

病室の窓より降り来る雪見つつ、積りし深さはえ見ずありけり。 もぐら
しんしんと音絶えぬれば、雪見えぬ病室さへも冷えわたりけり。 もぐら


福笹をかつげる夫を、見失ふ。 高林三代女

勇ましく神輿担ぎて練る夫は他人の如き、夏祭りかな。 もぐら
年が年などとふ普段の弱音何処に置きしか、夫は御輿練るなり。 もぐら


七草や、兄弟の子の起きそろひ。 太祇

兄弟の揃ひて七草祝ひてし昔、遥かとなりにけるかな。 もぐら
七人のきょうだいあらば、と思ひてし、ななくさ粥は懐かしきかな。 もぐら


初夢に、故郷を見て涙かな。 一茶

ちちははのゐまさぬ故郷ふるさとを、思ふが毎に涙出づるなり。 もぐら
昔ゐし街の小路や並木道のみ夢に出で、春明けにけり。 もぐら


折てさす、是も門松にて候。 一茶

縁起縁起かつぐにあらねど、門に立つる松より春の来るべく思ほゆ。 もぐら
クリスマスリースにならひ、門松もリースとなりて門扉飾るなり。 もぐら


長病の今年も参る、雑煮かな。 正岡子規

今更に延壽の効などありがたくなけれど、今年も屠蘇散を買ふ。 もぐら
咳などをしつつ屠蘇入り酒呑めば、少しく命も延びむ、とぞ思ふ。 もぐら


お使ひの口上上手、お年玉。 星野立子

予算より財布ゆるめてしまひたる、二歳の孫の口上手かな。 もぐら
馬鹿息子、言ひくるめてしか、殊勝にも、おめでたう、など言ふが嬉しも。 もぐら


君も我も明治の生れ、初詣。 星野立子

昭和生まれ同士の古き夫婦なれど、今年も幸を願はむ、と思ふ。 もぐら
昭和とて二桁はじめの夫婦なれど、なほも命の延びしが嬉し。 もぐら


去年今年貫く、棒の如きもの。 高浜虚子

悲しみは大晦日にて打ち留めにして、初春のかしは手打たむ。 もぐら
昭和より平成つらぬくたましひを、やまとごころと人や言ふらむ。 もぐら

新歳時記十二月 [88]
投稿者:[ もぐら ]  投稿日:[ 2009年11月29日(日) 07時46分21秒 ]


新歳時記十二月


町と共に衰へし寺や、除夜の鐘。 高浜虚子

破れ寺、となりしは、檀家衆多く逃散せしかの飢饉がゆゑなり。 もぐら
駐車場ゆゑに寂れし寺なれば、つひに梵鐘さへも売りし、と。 もぐら


掛乞に、水など汲んで貰ひけり。 一茶

掛け取りと水盃など汲みかはし、詮のなかりし逝く年を恨む。 もぐら
掛け取りを落語の如くもてなせど、相手は暴力団にてありけり。 もぐら


ともかくも、あなたまかせの年の暮。 一茶

金を呉れ、金呉れとのみ言ふ人の、まつりごととは一体これ何。 もぐら
賽銭とお神酒がためのまつりごとなりしを、果てて後にしぞ知る。 もぐら


とんとんと上る階段、年忘。 星野立子

出遅れをせしかば、神社の階段の中ほど登りて新年となる。 もぐら
年男ゆゑ幾許か福あり、と言ひくるめられける町会幹事。 もぐら


旅寝して見しや、うき世のすす払。 芭蕉

つごもり、と浮き世は言へど、きのふけふ我は変らぬ旅寝なりけり。 もぐら
きのふまで着てゐし旅のころもさへ、脱がまほしかる春の風かな。 もぐら


この木戸や、鎖のさされて冬の月。 芭蕉

ゐし人は何処の空の月見ゐむ。棲家の冬はひたすら冷たし。 もぐら
人は今北国雪に埋もれつ、と冬の月はし嗤ふなりけり。 もぐら


料亭の昼、深閑と敷松葉。 藤松遊子

きのふまでの談合、どうやら決着の付きしか、料亭深閑とす。 もぐら
談合は違法となれど、呑みながら腹探りあふはなほも合法。 もぐら


帰り来し故郷の山河、虎落笛。 星野立子

母かへり来、とふを聞きて、怒りよりもあのことこの事話したかりき。 もぐら
かへり来し母、以前よりまして暗き顔し給ふことぞ悲しき。 もぐら


布団着て寝たる姿や、東山。 嵐雪

東山ぬくぬくしゐるは蒲団ゆゑならで、マグマの熱きゆゑなり。 もぐら
何処掘れど、熱湯出づるは同じなり。深き浅きの多少の差あれど。 もぐら


住みつかぬ旅のこころや、置炬燵。 芭蕉

宿にゐて日の出見るさへけふのみ、と思ふことこそ旅にてあるなれ。 もぐら
宿の炬燵、ぬくぬくとゐて、もふ旅は止め止め、と言ふ歳の暮かな。 もぐら


あら何ともなや、きのふは過ぎてふぐと汁。 芭蕉

恐ろしき塩の毒はし、酒の毒河豚の毒にも勝れり、と思ふ。 もぐら
河豚の毒は何ともなけれど、塩の毒ゆゑに七転八倒するなり。 もぐら


旅に病て、夢は枯野をかけ廻る。 芭蕉

人の世の旅はし冬に果てむとも、夢なほ春へと続き行くなり。 もぐら
この旅は十万億土へ行くまで、と思へど春の来るは遅しも。 もぐら


熱燗の、今一本を所望かな。 麻田椎花

酒、酒、と嬉しく呑みて機嫌良くなりしがゆゑの、いまなほ一本。 もぐら
唇の乾きたるとき、胸の内の濡れゐるときにはひたすら酒欲し。 もぐら


海くれて、鴨の声ほのかに白し。 芭蕉

夜の海にちちちと鳴きゐる千鳥あはれ、きっとめしひしならむ、と思へば。 もぐら
見しことにあらず聴きたることを書き、「春の海」とふなりし、とぞ思ふ。 もぐら


大仏の冬日は、山に移りけり。 星野立子

鎌倉を見捨てて、秋のあかね陽は、奈良大仏を照らし給へり。 もぐら
冬陽もふ仇を討ちに長崎へ往にたれば、江戸、闇となりけり。 もぐら

新歳時記十一月 [87]
投稿者:[ もぐら ]  投稿日:[ 2009年10月31日(土) 20時16分23秒 ]

新歳時記十一月


神還り給へる、富士の白さかな。 岩木極鳥

出雲より白き衣を土産とて、富士の御神は鎮まり給ふ。 もぐら
富士白し、浅間も白し、石見なる三瓶のお山も霜月、白し。 もぐら


木がらしの空見直すや、鶴の声。 去来

何の鳥も翔ぶことなき世をうるさし、と思ひ初めけるあはれ知りけり。 もぐら
むく鳥の来ず、となりたる並木道。静かに良しとふ人はし憎かり。 もぐら


銀杏散るまっただなかに、法科あり。 山口青邨

いてふ今独立法人となり果てて、ぎんなん、落ち葉も成果なり、とふ。 もぐら
独法は勝手に遊びて良し、といふ趣旨にはあらず、と我なほ思ふ。 もぐら


からから、と落ち葉追ひ来て、追い越しぬ。 星野立子

落ち葉さへこのひととせを覚へゐむ、秋忘れたき我をしおきて。 もぐら
からまつの林の出入り、最近は高速道路が出来てうるさし。 もぐら


明るさや、どこかにきっと帰り花。 今井千鶴子

枯れ田ひろく広くつづきて、向かう村、けふは祭りの囃し鳴るなり。 もぐら
秋まつりなれども今まで何も無し。山車を、と言へば氏子反対す。 もぐら


七五三、妻も大人となりにけり。 景山筍吉

二十年昔は、娘も妻もまた立派な女にありしとぞ思ふ。 もぐら
妻は女、我は男にありにけり。金婚式にはなほ間があれど。 もぐら


山茶花や、かなしきまでに好きになりぬ。 星野立子

ひと恋ひはひと恋ひなりにかなしくて、ただ山茶花の垣を過ぎけり。 もぐら
小春日を言祝ぐ花なり、さざんかの紅をしたひて我徘徊す。 もぐら


旅人と我名よばれん、初時雨。 芭蕉

時雨して旅のこころも定まりぬ。簑濡れ初めしが嬉しかりけり。 もぐら
小春日は旅のこころも倦みにけり、しばしさざんかの花を見てゐむ。 もぐら


今日よりは、十一月の旅日記。 星野立子

余白ページ少なくなりたる日記帖、せめて年内佳きこと書かむ。 もぐら
けふ明日あさってまでは思へども、その後は何処の空の下やら。 もぐら


新歳時記十月 [86]
投稿者:[ もぐら ]  投稿日:[ 2009年09月30日(水) 22時55分11秒 ]

 新歳時記十月


松風や、軒をめぐって秋暮れぬ。 芭蕉

松風の音聴くころは、欲も得もさっぱり冷めてしまひけるかな。 もぐら
もろもろの欲の消えにしゆゑは、けふの冷たき秋の風、としぞ思ふ。 もぐら


鹿の声聞きに泊りに来よ、と僧。 星野立子

旅寝して、いういう鳴きゐる鹿もまた妻恋ふなり、とかなしかりけり。 もぐら
ひとり身にしあれば、今宵牡鹿の誘ひにのりて森へ往なむかも。 もぐら


この先は如何なる処、紅葉狩。 星野立子

この先は、山姥どのと酌み交す徳利を提げて辿る路なり。 もぐら
けふよりは山姥どのも、猩々の袴を着けてひとさし舞ふべし。 もぐら


大寺の片戸さしけり、夕紅葉。 一茶

早起きをせし小坊主は、早く寝に就かむとしてか、寺門閉ざすなり。 もぐら
庭紅葉鮮やかとなる頃がゆゑか、寺門を閉ざす和尚、強欲。 もぐら


秋深し、隣は何をする人ぞ。 芭蕉

大麻とは思ひはせねど、がさごそと怪しき鉢を運ぶ隣人。 もぐら
何ゆゑか隣に女の声のして、あ、といふひとことありしに妬けたり。 もぐら


転任の噂はあれど、障子貼る。 村山一棹

前任の男は左遷されし、とぞ。残せし社宅は荒れ放題なり。 もぐら
酔ひてゐて小耳にはさみし「転勤」の一語。忽ち醒めにけるかな。 もぐら


拾ふ気になれば、団栗いくらでも。 柳本津也子

団栗を拾ひて干して粉に挽き、月見団子にせばな、と子ら言ふ。 もぐら
戦時下に於いて団栗粉饅頭、喰ひしか否か、定かならざり。 もぐら


論つきず、落花生のみ散乱し。 浅野右橘

酒論にはいろいろあれども、結局は強弱によりて決るなりけり。 もぐら
早く酔ひしはうが結局負けとなる。酒の上なる口論、簡単。 もぐら


野ざらしを心に、風のしむ身かな。 芭蕉

必死なる旅心をし嗤ふ如く、秋の天あくまでも蒼かり。 もぐら
何処へか旅するにても、秋空の茜の色に変り行くまで。 もぐら


うそ寒や、黒髪へりて枕ぐせ。 杉田久女

黒髪のすと抜けたるを、我が恋の到ることなき如し、と悲し。 もぐら
共白髪なりたる頃に、人の恋、人の命を悟りけるかな。 もぐら


灯明の灯をかき立て、砧かな。 許六

砧打つ音はし、遥か一里先の多摩の河原の家、としぞ思ふ。 もぐら
あはれ多摩の河原に建てしあばら屋に、砧打つとも聴く人もなし。 もぐら


能登衆と、一夜の酒を温めむ。 桑田青虎

能登の国にめぐみ恵みは多けれど、人の情けにまさるものなし。 もぐら
門前ゆ輪島に到る道すがら、パンクに泣きしを助け給ひて。 もぐら


運動会、少年少女脚長く。 副島いみ子

運動会予行演習らしくして、近所中学、朝より騒がし。 もぐら
女子中学生ら、ひと群れ通り過ぎ、芋ねえめきたる姿めでたし。 もぐら


菊の香や、奈良には古き仏達。 芭蕉

翁見し頃よりなほも古り給ひけるみ仏に、菊薫るなり。 もぐら
あはれともあはれや、天平いつ頃か知らねど、み仏菊褒め給ふ。 もぐら


柿ぬしや、梢はちかき嵐山。 去来

化野は柿枯れ果てて、小倉山、熟柿の如き我通ふなり。 もぐら
現し身のあはれも知らで、秋の日の嵯峨野の柿の色に染みけり。 もぐら


茸狩や、頭を挙れば峰の月。 蕪村

尺八の音らしき聴こえ、見回せど、編み笠の下頭判らず。 もぐら
朝早くに生い出でし茸を摘まむとて、刀の鞘も露に濡れけり。 もぐら


石山の石より白し、秋の風。 芭蕉

次の巻の構想あまた湧きたれば、秋風の中ひとり酔ひてむ。 もぐら
あとひと巻にて筆置かむ、のこころあれど、なほ秋風はひとを酔はしむ。 もぐら



サハリンも見え、さいはての秋日和。 小島海王

残念無念至極と呻く声納め、事故の記念碑けふも北風。 もぐら
指呼の先に見ゆる樺太岬さへ、遥かとなりけるけふにてありけり。 もぐら



新歳時記九月 [85]
投稿者:[ もぐら ]  投稿日:[ 2009年08月31日(月) 19時35分22秒 ]



水澄みて、水澄みて人新たなり。 星野立子

往し人の面影ばかり新たにて、ふり行くままの我が身なりけり。 もぐら
立つ鳥のごとくにあらぬ現し身の。沼の面ひたすら乱すのみなり。 もぐら


桃ひとつ、甘き匂ひを放ちたる。 今井千鶴子

触れずとも柔毛の肌に生ひ出でて、桃の果実のごとき人はも。 もぐら
なにも人の思ふとほりにあらずとも、ももの実ひとつ我は恋ふべし。 もぐら


秋茄子や、やさしくなりし母かなし。 星野立子

秋茄子を題に、俳句をあまた作り給へる母はし、徘徊に遠し。 もぐら
晩飯のころには必ず家に戻る、我が餓鬼、決して徘徊と言はず。 もぐら


紫蘇の実を、鋏の鈴の鳴りて摘む。 高浜虚子

和の鋏、などとふあるが嬉しくて、ちひさき鈴を二三つけたり。 もぐら
紫蘇の実を手もて扱きて、甘き香の爪のあたりに染みつきにけり。 もぐら


送り出し、門にしばしの月見かな。 稲畑汀子

アニョンケセヨ、とて送り出し、玄海の海平安を祈るなりけり。 もぐら
釜山には釜山の月あり、馬関にはまたそれありて、波静かなり。 もぐら


名月や、門へさしくる潮頭。 芭蕉

深川は海より深き街なれば、川とて海より深く流るなり。 もぐら
門仲、と呼ぶ声ありて、川よりも深き駅より呑みに上がりたり。 もぐら


月天心、貧しき町を通りけり。 蕪村

きのふまでゐし家、今は毀たれて、中天行く月のみは変らず。 もぐら
昔このあたりに住ゐし人ら、今いづこの月を見ゐるか知らず。 もぐら


露の世は露の世ながら、さりながら。 一茶

露ばかり露ばかりなる人の世に、百とせ咲き継ぐ花ひとつもがも。 もぐら
露の世に露のひとつと生れしかば、露のひとつと消えぬべきなり。 もぐら

新歳時記八月 [84]
投稿者:[ もぐら ]  投稿日:[ 2009年07月27日(月) 21時34分55秒 ]




芭蕉野分して、盥に雨を聞く夜かな。 芭蕉

梅雨明けの集中豪雨と予報婦は言へど、我が家の盥のみなり。 もぐら
訳も知らず警報出せども、意味知らぬ役人ゐしかば、馬耳に東風。 もぐら


われ黙り、ひと話しかく赤のまま。 星野立子

何ひとつ言ふことはなく、何ひとつ欠くることなき赤のままかな。 もぐら
きよげにはあらざる秋のこころして、赤のまま咲く、ただ見入りたり。 もぐら


摘み摘みて、隠元、いまは竹の先。 杉田久女

隠元豆、摘めども摘めども生ひ来る不思議を、バタにて炒めあげけり。 もぐら
隠元の二三を無塩バタに炒め、ひとりゐゆゑの昼食となす。 もぐら


道のべの木槿は、馬に喰はれけり。 芭蕉

木槿喰ひしならむ一頭荒れ馬の、馬子振り捨てて街道西へ。 もぐら
さっき木槿喰らひし馬のいななきて、東海道なほ陽は高かりき。 もぐら


蜩の、最後の声の遠ざかる。 稲畑汀子

何のかの、と言ひつ言はれつ学生ら、試験済まさば全部忘れむ。 もぐら
一割は覚えて呉れよ、と教師心あれども、世間の常識強しも。 もぐら


四五人に月落ちかかる、踊りかな。 蕪村

ふる里の音頭を都会の町会の盆踊りに聴き、懐かしかりけり。 もぐら
あと四五人なれば、櫓の上にても、八木節うたふを倦み果てにけり。 もぐら


故里を発つ汽車に在り、盆の月。 竹下しづの女

ハンカチのぐしょぐしょなりし若き折、月を車窓に上京せしとき。 もぐら
上辺のみ都会となりしふる里に帰りて、昔のハンカチを探す。 もぐら


荒海や、佐渡に横たふ天の川。 芭蕉

荒海をものともせずに佐渡上空、テポドンらしきの飛び行くらしも。 もぐら
米山の麓は集中豪雨中。日食、佐渡さへえ見ずありけり。 もぐら

新歳時記七月 [83]
投稿者:[ もぐら ]  投稿日:[ 2009年06月13日(土) 10時44分40秒 ]



黒々と山動きけり、夜の秋。 星野椿

秋立ちてむかうのお山に人はゐぬらしく、黒ぐろ鎮もりゐたり。 もぐら
いつか知らず花散りけり、と知る由もなくしてひたすら山眠りけり。 もぐら


夕顔に、水仕もすみて佇めり。 杉田久女

せうも無き人とゐてする家事万端、せうもなしとぞ思ひけるかな。 もぐら
今宵のみひそと咲きゐる夕顔の白きに、人の秋は来ぬめり。 もぐら


香水の香ぞ、鉄壁をなせりける。 中村草田男

満員の地下鉄にゐて、つけすぎの香水しばしの暴力となる。 もぐら
マスクするは迷信なり、とテレビ言へば、地下鉄ひとりもする人の無し。 もぐら


泳げても泳げなくても、水着着て。 稲畑汀子

ビキニ以後、水着は泳ぐためならで、人に見するがためとなりけり。 もぐら
おばちゃんの生々しきがビキニ着て、何言ふべきかことば詰まりつ。 もぐら


しづかさや、岩にしみ入る蝉の声。 芭蕉

翁、はっ、と睨みてあれば、蝉どもは鳴く声止めたる山の寺かな。 もぐら
千幾段登りし人を嗤ふごとく、蝉どもせせらせせらと鳴くなり。 もぐら


市中はもののにほひや、夏の月。 凡兆

東京駅。食ひ物ばかりの匂ひして、新幹線の無臭慶ぶ。 もぐら
駅ナカに喰ひ物いろいろ売りをりて、駅弁のみなりし昔偲ばゆ。 もぐら


象潟や、雨に西施が合歓花。 芭蕉

しづしづと降り来る雨に濡れゐるがごとくに、合歓は笑みゐたりけり。 もぐら
くれなゐは梅雨のみどりの染めゐるがごとくに、あはれ涙するなり。 もぐら

新歳時記六月 [82]
投稿者:[ もぐら ]  投稿日:[ 2009年05月31日(日) 22時14分45秒 ]


茅の輪くぐり、星降る夜空詣でけり。 星野立子

吉か凶か知らねど憂き世の輪をくぐり、くぐりて七十度を経にけり。 もぐら
茅の輪ひとつひとつ、とくぐり、あと幾つくぐらばあの世へ行かむか、と思ふ。 もぐら


新任の、宿屋住居の籐椅子かな。 唐沢樹子

幸いに端渓がらぬ主ゐし、宿屋にゐたりし新任の頃。 もぐら
宿屋ゆゑ、天扶羅そばなど出るはずもなくて、無聊の夕食なりけり。 もぐら


清流に、つき出し二階、青簾。 星野立子

青すだれ越しの流れは清けれど、勘定書は恐ろしかりけり。 もぐら
ひたすらに酔ひたりけるは良けれども、賀茂の川音も聴かずい寝たり。 もぐら


夏足袋のよく洗はれて、よく継がれ。 景山筍吉

継ぎ継ぎのあまりに原型を留めず、となりける足袋を今朝もまた穿く。 もぐら
穴開きし靴下捨つるに惜しくして、継ぎさへもせず一年あまり穿く。 もぐら


出嫌ひも、夏帯しむるまでのこと。 原菊翁

しゃっきりと帯締めたれど、なほも出るをためらひにける午後の暑さは。 もぐら
少々の用などその内、なになにと言ひやりにける暑さなりけり。 もぐら


夏草や、兵共がゆめの跡。 芭蕉

破れ兜冠りし大将、今どこに如何なる夢を見ゐるか知らず。 もぐら
山河あれど秋草なべて露置きて、亡びし邦こそあはれなりけれ。 もぐら


満目の緑に坐る、主かな。 高浜虚子

障子あけて座敷は緑に埋まりけり。客もあるじもその中にあり。 もぐら
見合ひとて来し座敷には、一輪の花また万緑に埋みてありけり。 もぐら


蝙蝠や、川をはさみて皆裏戸。 松永寄涛

何処より出でしか知らず蝙蝠のひとひら、運河の夜を呼びけり。 もぐら
何処とも知らず鰻の匂ひきて、蝙蝠さへも焼きて喰ひたし。 もぐら


蚊遣火の煙の末を、ながめけり。 日野草城

蚊は手足しびれて、人はかゆき忘れ、蚊取り線香に夏過ごしけり。 もぐら
殺すにはあらず、翅をし麻痺させてしまふ線香あはれなりけり。 もぐら


おもしろうて、やがてかなしき鵜舟かな。 芭蕉

伝統の鵜飼見物良けれども、勘定誰が払ふか知らず。 もぐら
鵜飼済み、あとカラオケと誘はるる身はし鵜なりと思ひけるかな。 もぐら


風流のはじめや、奥の田植うた。 芭蕉

此処かしこ徘徊めきて歩み来れば、陸奥わたりは田植ゑ頃なり。 もぐら
田植歌、よくよく聴けば、最近のSMAPらしきが面白きなり。 もぐら


大学を出れば、肩下げ梅雨の道。 松本巨草

学卒の資格は派遣には効かず、明日の飯ばかり心配するなり。 もぐら
就職の十分条件ならずして、必要条件に過ぎぬ大学。 もぐら


新歳時記五月 [81]
投稿者:[ もぐら ]  投稿日:[ 2009年04月28日(火) 16時13分01秒 ]


山寺に絵像かけたり、業平忌。 高浜虚子

絵姿に幾夜寝覚めぬ思ひせし。義清どのの春の曙。 もぐら
ちちははの絵すがた掛けて、筑紫へと行く兵がこころ悲ししも。 もぐら


麦打の音に、近づきゆきにけり。 星野立子

麦を打つ男にお世辞を言ひ言ひて、飯ありつかむとふ下心あり。 もぐら
さつき空ひたすら蒼く、打つ麦はひたすら黄金に、信濃豊科。 もぐら


いざ共に穂麦食らはん、草枕。 芭蕉

我が路銀少なくなりて、犬餌の残飯にさへまなこ向きけり。 もぐら
お情けがままなる伊勢へ抜け参り、やうやく此処は松坂、と言ふ。 もぐら


彼のことを聞いてみたくて、目を薔薇に。 今井千鶴子

幾十年前の元彼、なにとやら理事長となり、逮捕されつ、と。 もぐら
それぞれに仕事家庭を持ちゐし、と顔を見合はす初恋同士。 もぐら


僧になる子の美しや、芥子の花。 一茶

托鉢に世すぎするこそかなしけれ、五穀稔りの薄きこのころ。 もぐら
天辺を清げにくるりと丸めては、とと様お世話になりましたなど言ふ。 もぐら


清瀧や、波に散込む青松葉。 芭蕉

しづしづと谷川は行き、われらしばし人ゐぬ岩にて抱き合ひゐたり。 もぐら
くれなゐの散りゆくままに、清滝のふたりの何やら散りしとぞ思ふ。 もぐら



不二ひとつうづみ残して、わかばかな。 蕪村

いづくよりかかる光の照るならむ、右も左も若葉なりけり。 もぐら
富士が嶺のなほも白きを恨みにて、甲斐も駿河も若葉なりけり。 もぐら

からから、と祭帰りの人通り。 星野立子

やうやくに人声絶えて、祭りしゐし境内蒼き月ばかりなり。 もぐら
からころ、と嬉しきことのありしならむ、浴衣の裾の歩み行く見ゆ。 もぐら


御手打の夫婦なりしを、更衣。 蕪村

御手打の、串刺しなどと物騒を言はれしかども、なほ夫婦なり。 もぐら
夜逃げせし折持ち出せしお召見て、昔の苦労を思ふなりけり。 もぐら


娘とは嫁して他人よ、更衣。 星野立子

衣装箪笥半分ほどの中身持ちて嫁したる娘よ、少しは返せ。 もぐら
嫁ぎ上手、貰ひ上手の娘ゆゑ、箪笥の中身のあらかたは無し。 もぐら


牡丹散て、うちかさなりぬ二三片。 蕪村

くれなゐは雪に優るとは言はねども、牡丹の紅にこころ融けけり。 もぐら
人知らで牡丹知る、とふ酣の春はし、やうやく庭に来しかな。 もぐら




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