黒々と山動きけり、夜の秋。 星野椿
秋立ちてむかうのお山に人はゐぬらしく、黒ぐろ鎮もりゐたり。 もぐら
いつか知らず花散りけり、と知る由もなくしてひたすら山眠りけり。 もぐら
夕顔に、水仕もすみて佇めり。 杉田久女
せうも無き人とゐてする家事万端、せうもなしとぞ思ひけるかな。 もぐら
今宵のみひそと咲きゐる夕顔の白きに、人の秋は来ぬめり。 もぐら
香水の香ぞ、鉄壁をなせりける。 中村草田男
満員の地下鉄にゐて、つけすぎの香水しばしの暴力となる。 もぐら
マスクするは迷信なり、とテレビ言へば、地下鉄ひとりもする人の無し。 もぐら
泳げても泳げなくても、水着着て。 稲畑汀子
ビキニ以後、水着は泳ぐためならで、人に見するがためとなりけり。 もぐら
おばちゃんの生々しきがビキニ着て、何言ふべきかことば詰まりつ。 もぐら
しづかさや、岩にしみ入る蝉の声。 芭蕉
翁、はっ、と睨みてあれば、蝉どもは鳴く声止めたる山の寺かな。 もぐら
千幾段登りし人を嗤ふごとく、蝉どもせせらせせらと鳴くなり。 もぐら
市中はもののにほひや、夏の月。 凡兆
東京駅。食ひ物ばかりの匂ひして、新幹線の無臭慶ぶ。 もぐら
駅ナカに喰ひ物いろいろ売りをりて、駅弁のみなりし昔偲ばゆ。 もぐら
象潟や、雨に西施が合歓花。 芭蕉
しづしづと降り来る雨に濡れゐるがごとくに、合歓は笑みゐたりけり。 もぐら
くれなゐは梅雨のみどりの染めゐるがごとくに、あはれ涙するなり。 もぐら