庭掃除して、梅椿、実朝忌。 星野立子
この庭は、実朝どのの屋敷跡、とて道を行く若者恐ろし。 もぐら
用もなき観光客の我なれど、立子先生ゐし跡懐かし。 もぐら
小包の軽さよ、出でて来し若布。 星野立子
缶麦酒多く入りたるお歳暮は、配達人、我ともに辛かり。 もぐら
缶麦酒多くあれども、客ワインのみ飲みたればすべて残れり。 もぐら
犬ふぐり、星のまたたく如くなり。 高浜虚子
めぐり来しさやけき光を言祝ぎて、犬のふぐりは春にまたたく。 もぐら
風潔く、犬のふぐりのひそやかに咲きにし春に、また逢ひにけり。 もぐら
まん丸に草青みけり、堂の前。 一茶
我がやどの前の荒波しづもりて、越後の浜にも春は来にけり。 もぐら
軒端まで積みにし雪もあと少しばかりとなりて、越後春なり。 もぐら
鴬に、終日遠し畑の人。 蕪村
鶯の、恥らふごとくちち、と鳴く声同行に春峠越ゆ。 もぐら
背の畑を耕す人の遠く遠くなりゆき、本船出港したり。 もぐら
鴬の身を逆に、はつねかな。 其角
天辺は、山とも谷とも知らねども、ほのぼの白む一声なりけり。 もぐら
やうやくに喉慣らしをし済ませたる、その一声に春は来にけり。 もぐら
むめ一輪、一輪ほどのあたたかさ。 嵐雪
ひともとの水仙咲きつと見るほどに、山里なべて春は来にけり。 もぐら
梅一輪、また一輪と散り行きて、しばしの吹雪となりにけるかな。 もぐら
梅白し、まことに白く新しく。 星野立子
生きてなほ梅のかほりを聞き得し、と天の恵みをたたへけるかな。 もぐら
新しき世にしてなほも老梅に一輪紅あることぞ嬉しき。 もぐら
しののめに、小雨降出す焼野かな。 蕪村
野焼きせし跡の黒きに、早蕨の萌え出づるこそ嬉しかりけれ。 もぐら
やうやうに舟さしかかる都井岬、馬は見えねど春霞かな。 もぐら
さ、と過ぐる切戸の潮のさよりかな。 高浜年尾
きのふまでありける渦はいまいづこ。瀬戸内春のさかりなりけり。 もぐら
けふよりは舟来ず、といふ港しは、しづかに桜の散りかかるなり。 もぐら
濡れて来し雨をふるふや、猫の妻。 太祇
ご近所に猫の少なくなりしかば、絶滅危惧か、とにゃおにゃお鳴くなり。 もぐら
知らぬ間に雨降りだししを、恋猫の声の絶えしに気づきけるかな。 もぐら
関の戸の、火鉢ちひさき余寒かな。 蕪村
関さば、と言ひて囃して、高き魚をちびりちびりと舐めにけるかな。 もぐら
関さばはけふの肴に佳し、といふ。高き日本酒合ふにてしあるらし。 もぐら
川口に、小蒸気入るる雪濁り。 矢田挿雲
高速船、つ、と来て賑はふ桟橋に、やがては春の茜差すなり。 もぐら
最終船行きし後には、しづしづと離島は闇の中に沈めり。 もぐら
子供等に、まだかまくらの空昏れず。 川上玉秀
この冬は異常に少なき雪なれば、鎌倉行く、と子らを宥めつ。 もぐら
やうやうと降り積む雪に、かまくらの天井崩れ、子ら埋みて泣く。 もぐら
ヴァレンタインデーの会話として聞けば。 稲畑汀子
おばちゃんにチョコ貰ひしが、うれしくも悲しくもなきバレンタインかな。 もぐら
義理チョコを貰ふことなどなくなりて、せめてうれしき桃の花かな。 もぐら
立春の子を授かりし、予感かな。 藤原比呂子
春、と言へば猫のみならぬ女の身、内には潮の差して来るあり。 もぐら
春思ふ頃にしあれば、猫ならぬ人の女の身はしはづかし。 もぐら