たのしさや、草の錦といふ言葉。 星野立子
何を言ふかは知らねども、きのふより錦纏ひし庭の楓葉。 もぐら
錦織の帯の如くに、秋の陽に華やぐ公園花壇なりけり。 もぐら
草紅葉、ここより熊野詣径。 稲畑汀子
熊野へと詣る道連れの如くして、王子にそれぞれ紅葉のゐたり。 もぐら
熊野まであと幾王子かを数へつつ、道々紅葉は色増しにけり。 もぐら
程ケ谷や、雑木紅葉も町の中。 今井つる女
番地尋ね尋ねあぐねて行く路地の果ては、紅葉の行き止りなり。 もぐら
行く先の番地は雑木林の中。狐狸が仕業、と立ち竦みけり。 もぐら
秋深き隣は、何をする人ぞ。 芭蕉
盗聴器仕掛けむとするほどに隣、なにして食らひゐるかを知らず。 もぐら
盗聴器仕掛けたれども、詮もなき愚痴のみ聞きたる秋の暮かな。 もぐら
拾ふ気になれば、団栗いくらでも。 柳本津也子
団栗を拾へど拾へど降り積みて、栗の実ならば、と思ふころかな。 もぐら
団栗を三つ四つ採りて、ままごとのランチとなして腹ふくれけり。 もぐら
大利根に渡し場多し、芦の花。 三苫落魄居
翡翠の何処此処そこは丸秘にて、日はなほ高し大利根河原。 もぐら
河原には芦刈り尽くされ、ひばりやらよしきりやらは何処行きけむ。 もぐら
野ざらしを心に、風のしむ身かな。 芭蕉
生きて帰る定めなど無き人の身がゆゑに、旅をしせむとするなり。 もぐら
酒掛けて殊勝に回向をせしかども、骨はし八十過ぎたる老婆。 もぐら
牛に物言うて出て行く夜寒かな。 蒼虻
家ひとらすべて留守にて、言づてを斑牛に言ふ里の秋かな。 もぐら
寄り合ひも面倒なれば、斑牛にもうと代理を頼みたくあり。 もぐら
密猟の小鳥を食はす、峠かな。 安田蚊杖
かすみ網にかかりし鳥共、つくね焼として食へども、酒はまづかり。 もぐら
これかすみ網か、と問へば、焼鳥や、そ知らぬ顔に話し逸らしけり。 もぐら
菊の香や、奈良には古き仏達。 芭蕉
我と共に紅葉恋ひゐる仏たちゐて、南都には秋風さやけし。 もぐら
鴟尾に紅き陽の落つるころ、我が身また仏と共に天平にゐる。 もぐら
黄菊白菊。其外の名は無くもがな。 嵐雪
しばらくは菊の名などは忘れゐむ、ロンドン行きの機中に在れば。 もぐら
華やかに黄菊白菊咲くを見て、我が園芸のつたなさを思ふ。 もぐら
柿ぬしや、梢は近き嵐山。 去来
主往にて幾百年か、柿の樹の梢はなほも紅くありけり。 もぐら
主のゐしころにくらべて、観光客の渦の中なる落柿舎なりけり。 もぐら
泣かせたる方が弟。木の実独楽。 泉浄宝
べえ独楽を回すを得ずして老いにけり、弟、それの巧者たれども。 もぐら
タイミング不確定性多くして、われべえ独楽を回すを得ざりき。 もぐら
からうじて山田実りぬ、落し水。 几董
来年に食ふべき米を、この夏の二ヶ月に得む、とふ人間の勝手。 もぐら
十分の米の蓄へ得ざれども、この秋の田に霜は置くなり。 もぐら
石山の石より白し、秋の風。 芭蕉
彼岸花の紅さへ霧にかすみつつ、色消えにけるみちのくの秋。 もぐら
濡れて濡れて濡れしゆゑさへ知らぬまま、嵯峨の秋野の途惑ひけり。 もぐら
頁繰る如く秋晴、今日も亦。 星野立子
子午線の東も西も秋晴にありける、ロンドン・グリニッヂかな。 もぐら
秋晴は前ページなれば、けふは霧深くて文字もえ読まずありけり。 もぐら