;================================ ;ORI09.J ;-------------------------------- 01:白き句も、巨船の白も晩夏なる。 大木康志(日月抄) 売船となりたるフェリー、薄き錆の浮くまま港外ひっそりとゐる。 もぐら デッキには白雪積みて、北海道航路の帰港あと僅かなり。 もぐら 02:天ぷらのさくと揚がりぬ、秋麗。 羽田大佑(17音の青春2006) 天扶羅のかほり佳けれど、食ひてかくも塩の多きに涙しにけり。 もぐら 食ひてみて、いつも旨しと限らぬは、天扶羅なりと思ひけるかも。 もぐら 03:突進の面構なる、鱸かな。 植田房子(花柚) すずき買ひて、猫またぐかと思ひしかども、面構へゆゑか逃げてしまへり。 もぐら さよりさんと今幸せに暮らしゐむ、すずき君なる先輩を思ふ。 もぐら 04:あはれ、子の夜寒の床の引けば寄る。 中村汀女(汀女句集) きのふまで飼ひゐし犬の夢を見しならむ、頭を撫づる仕草す。 もぐら 夢に見る家はしいつも、昔々少年の頃に住みゐし家なり。 もぐら 05:朝顔や、人の顔にはそつがある。 小林一茶(一茶集) 人の顔みて、我が顔もあの程度なるべし、と鏡は見ずじまひなり。 もぐら あはき朝の光に生れし花の、露の濡れゐる間なり、と言ふがあはれさ。 もぐら 06:食はれ残りの泥鰌が、我に髯を振る。 加藤楸邨(怒涛) 恐ろしき眼をもて睨む魚ゆゑに、我一合の酒余しけり。 もぐら 魚を食ふことのし無くば我酔はず。然して食はば我悪酔ひす。 もぐら 07:越中に、勝手廻りの芋水車。 斎藤夏風(禾) 芋洗ふ水流タービン、ぐつぐつと日がな文句を言ひゐるらしも。 もぐら 自転車は、エネルギー使はず幾らでも速く走る、と言へども信ぜず。 もぐら 08:筒袖や、秋の柩にしたがはず。 夏目漱石(漱石全集) 筒袖は涙拭くにはふさはしくあらねど、けふは我が母死せり。 もぐら 筒袖を吹き抜けにける秋風にこころ冷えたり、恋ふ人は去る。 もぐら 09:時をおき老樹の雫おつるごと、静けき酒は朝にこそあれ。 若山牧水(砂丘) 一人ゐて酒を呑むこそ悲しけれ、ただ半合にひた酔ひにけり。 もぐら 酔ひにける夜の短さよ、七つばかり悲しき夢に朝知りにけり。 もぐら 10:彼の世より呼び立つるにや、この世にて引き留むるにや、熊蝉の声。 吉野秀雄(含紅集) あの世よりの声にやあらむ、ひぐらしのしんしん秋を鳴きわたりけり。 もぐら 知らぬ人はあの世の声と思ふらむ。熊蝉、親ゐる墓に鳴きゐる。 もぐら 11:休刊日 師とふ人のふみ見て、如何に学びたりし、学ぶえざりしを思ふのみなり。 もぐら 塩多く入りたるお握り食ふことの無き休刊日、めでたかりけり。 もぐら 12:潜り戸を開け、月明といふ香気。 池上貴誉子(別の木で) うつしみにして月といふゆめを見る我、いまきのふの薫り嗅ぎたり。 もぐら ひとり立つを得しをこの世の幸となす、仰ぎて月見る夜々はさ思ふ。 もぐら 13:あさ顔や、小詰役者のひとり起。 炭太祇(太祇句選後篇) 寝て起きて我が顔如何に、と思ふにも、垣にまつはる花はさやけし。 もぐら 知らぬ間に咲き出で知らぬ間にしぼむ、花の如くに我もあらまし。 もぐら 14:馬鹿づらに白き髭見ゆ、けさの秋。 高井几董 思ふほどに剃れては呉れぬ残り髭、我また秋にゐたりけるかな。 もぐら 剃り忘れしが忘れしと重なりて、意外意外に生ひし髭かな。 もぐら 15:幾千のおんぶばったの、月夜かな。 松本秀一(早苗の空) ゐるはずの無き生き物の湧き出づる如きの満月、月明りかな。 もぐら 呑む酒の尽きたりけるを幸となすほどの、月夜にありにけるかな。 もぐら 16:ゑのころのくすぐったいぞ、牛の鼻。 石田勝彦(秋興以後) 笑ふまじくしてゐる我を、ねこじゃらし鼻先に振る孫は笑ふも。 もぐら 牛は、むう、と鳴き、ねこじゃらし穂に出でて、おらがの村は秋となりたり。 もぐら 17:秋鯖や、上司罵るために酔ふ。 草間時彦(中年) 課長、今言ふこと聞かぬ我がことを恨みて焼酎煽りをらむか。 もぐら 次の朝謝らむとせし我に、課長、悪かったな、と先手打ちけり。 もぐら 18:立山が後立山に影うつす、夕日の時の大きしづかさ。 川田順(鷲) 立山と後立山を分け刻む、黒部の渓の深きざわめき。 もぐら 立山を穿ち黒部渓にダム築く、人の営みの果てし無きこと。 もぐら 19:一途に雲の上を飛びながら、青空の寂しさを初めて知る。 前田夕暮(水源地帯) 誰でもが飛行機に乗り旅行すとふ、この不自然を悲しみにけり。 もぐら 水蓮洞にて修行なしてやうやくにし得しを、切符予約せば良し、と。 もぐら 20:出来秋の安値の底に売る米の、よく出来にけるがむしろさぶしき。 吉植庄亮(開墾) 我が食らふ昼飯作る女ゐて、我が呑むビール作る男ゐて。 もぐら 米作り米剰りたれば、そこかしこ荒れ田の見ゆる村ぞ悲しき。 もぐら 21:芋の露、不器用といふ宝もの。 冨樫均(風に鹿) 転がるは好き勝手なりと芋の葉の露言ふ。我もさなりと思ふも。 もぐら 父母に見せむ、と芋の葉の露を運べど、三歩歩みて零せり。 もぐら 22:月白の菜箸にして、鮮らしき。 高橋千草(初雲) 食ひたし、と思はぬふくの色白く満月にして、価高かり。 もぐら 月白む迄お預けといはれしかば、酔ひは酔ふとも腹減りにけり。 もぐら 23:レジにゐて寡黙な少女、吹き出しのごとき一語を放ちたるのみ。 小泉史昭(夕木霊) パートなれば、てんちゃうの言ふマニュアルの、文章らしきを発話するのみ。 もぐら ことば知らぬものの書きたるマニュアルを、ありがたがるとふ我等悲しも。 もぐら 24:奈落より、灯の洩るる秋狂言。 境野大波(一羽) けふも又大入り袋は出ざりき、と楽屋の灯を消し、虫の声聴く。 もぐら 酔ひつぶれたりける客を、やうやうに運びい出して照明を消す。 もぐら 25:蟻死せり、科学の本にはさまれて。 奥坂まや(縄文) 幾千年のち、めづらしき化石とて蘇れよ、と犬を埋めたり。 もぐら マンモスの化石を、人は非業の死などとは思はず、入場料取る。 もぐら 26:藍青の天のふかみに昨夜切りし爪の形の月、浮かびをり。 小島ゆかり(水陽炎) きのふ切りし月の形の爪は、今朝根方ゆ白く浮かび出でにけり。 もぐら 蔭といふ、形に本来なきものを、など月淡く作り給ふらむ。 もぐら 27:難船の物干す秋の浜、日和。 内藤鳴雪(鳴雪俳句抄) 忘れられ場所塞ぎなる難破船なれども、秋の陽は同じかり。 もぐら 野分けせし芭蕉の葉などの絡みゐる破れ舟、けふは秋日和なり。 もぐら 28:鳴き声は上げぬものかな、浅蜊をば熱き味噌汁にどどどと落とせり。 奥村晃作 鳴き声は挙げねど、浅蜊、不平不満溜まりし砂を吐きにけるかな。 もぐら これからは茹でらるる、とは知らぬげに、浅蜊は淡き砂吐きにけり。 もぐら 29:繋がれて翻弄さるるはまっぴら、と思ひつつ待つ君のメールを。 大下宣子(志斐がたり) 自立、とはいふなりにならぬことと思ひ、いふなりにせむとていひなりになる我。 もぐら 汝を繋がむとて、撚りにし黒髪の綱はしあはれ、我をも繋ぐも。 もぐら 30:案山子より、案山子めきたる農夫かな。 依田善朗(教師の子) 物忘れせしが如くに立つ案山子、今年は耕作放棄せむとふ。 もぐら 何思ふかは知らねども山案山子、するりと路を横切りにけり。 もぐら